ファンタスティック4──銀河食いしん坊と家族会議の幸福な関係

ヒーロー映画の能天気革命

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出展:https://www.themoviedb.org/movie/617126-the-fantastic-4-first-steps

ヒーロー映画というジャンルは、そもそも「世界が酷すぎるから超人の出番だよね」という前提で成り立っている。その典型が、同時期公開の某スーパーマン。同作では世界は過酷、正義は困難、それでも希望は捨てないぜ!という熱い反骨精神が描かれていた。

だが『ファンタスティック4』は違う。徹頭徹尾、楽天的。世界はそこまでひどくない。家族は守るが犠牲なんか払わない。みんなが優しく、すべてが報われる。

スー・ストーム(ヴァネッサ・カービー)が「子供か世界か」の二択で「子供!」と即答し、世界中から「自己中すぎ!」とフルボッコ食らう。定石ならここでたっぷり尺を割いてスーの苦悩を描く所だろう。しかし本作ではスーが悩んでるのは2分弱くらいで、そのあとスピーチ一発で赦される。この“能天気スピーチ許されムーブ”に乗っかって、後半ではリード・リチャーズ(ペドロ・パスカル)が「宇宙がヤバいから協力してね」と言えば世界各国が倫理的・政治的葛藤ゼロでヤシマ作戦ばりに団結してしまう。

ニューヨークのど真ん中にロケット発射基地がポンと建ち、瞬間移動装置をリードが片手間で完成させる。重力も量子力学も「ノリで解決!」とばかりにぶん投げる科学考証のガバガバっぷり。こんな脳天気な世界観を「そういう世界だから」で通してしまう清々しさに、逆に安心感すら覚える。

この突き抜けた能天気っぷり。これは現実の閉塞感に対して「でも人生って、わりとイケてない?」と肩をぽんと叩いてくる優しさだ。もはやマーベル版『かもめ食堂』である。

演出も“未来なのに懐かしい”美学で貫かれている。マイケル・ジアッチーノの劇伴はインダストリアルロック風の未来感に、超耳残りするコテコテのコーラス(ファンタスティックフォーーー♪)でレトロフューチャー感を盛り上げる。ヒーロースーツは妊娠対応の伸縮素材だし、宇宙船はおもちゃ箱的な夢を詰め込んだ造形だ。そして銀河神ギャラクタスは、神としての威厳よりも“宇宙食いしん坊”としてのキャラ立ちに徹する。

本作はつまり、“銀河規模の家族会議”を描いた作品だ。倫理的ジレンマや悲劇性は排除され、「宇宙で家族を守るって、こんなに楽しいんだよ」と全力で語りかけてくる。
MCUがシニカル路線に染まる中、本作はその潮流に対し祝福のサンドバッグを差し出す。「叩くなら叩いていいよ。でも笑顔で受け止めるよ」と。

結果、この映画はヒーロー映画の“光”だけを抽出した蒸留酒のような作品になった。
観終わったあと、子どもをギュッと抱きしめたくなる。銀河よりも大切なもの──それは家族だ。
それに気づけたなら、これこそ最高の宇宙映画じゃないだろうか。

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