「面白いミステリが観たい」――そんな漠然とした欲求に、これ以上ない精度で答えてくれるのがライアン・ジョンソン監督による『ナイブズ・アウト』シリーズだ。
007を卒業したダニエル・クレイグが、コミカルで鋭い名探偵ブノワ・ブランを熱演。
一作ごとに舞台もキャストも刷新される贅沢なこのシリーズは今やNetflixの、ひいては現代映画界の至宝と言っても過言ではない。
今回はなぜこのシリーズがこれほどまでに我々を熱狂させるのか、その禁断の魅力を徹底解説したい!
1. 贅沢すぎる「全員主役級」の容疑者たち

このシリーズの最大の特徴は、キャスティングの暴力的なまでの豪華さである。
「有名俳優が出てるしこいつが犯人に違いない」という、ミステリ映画特有の邪推がこの映画では通用しない。なぜなら容疑者全員がレジェンド級のスターだから。
画面のどこを切り取っても「顔面力」が強すぎて、観客は常に情報の過負荷状態。そんなスター度インフレワッショイの中で、観客は監督が仕掛けた巧妙な罠にいとも容易く嵌められていくのである。
2. 「映像は嘘をつかない」――究極のフェアプレイ精神

脚本も兼任するライアン・ジョンソン監督は、観客に対して極めて誠実かつ最高に意地悪。
「実は隠された証拠があった」という後出しジャンケンは一切なし。謎を解く鍵は、常に最初から画面のどこかに映し出されているのだ。
いわば映像版ノックスの十戒。
全情報が提示されているのに巧みな演出で観客の目を逸らさせるその手腕は、まさに「観る叙述トリック」。
二度観した時に「うわ、ここに映ってた!」と叫びたくなる快感は『ナイブズ・アウト』シリーズの大きな醍醐味だ。
3. 現代の「闇」を撃つ、鋭い批評性
アガサ・クリスティやディクスン・カーら古典的ミステリーの重鎮に大いに敬意を捧げる『ナイブズ・アウト』シリーズだが、単なる懐古趣味で終わらないのは悪役の設定が極めて現代的だからだろう。
1作目: 遺産に目が眩んだ、腐りきった特権階級たち。
2作目: 虚飾と名声に溺れ、中身が空っぽな熟年パリピたち。
3作目: 分断を煽り、人々の信心を私腹に変える宗教インフルエンサー。
普遍的な謎解きの枠組みを踏襲しつつ、現代社会の歪みを鮮やかに切り裂く。このアップデートされた毒気こそが、誰もが夢中になれるエンタメである所以なのだ。
『ナイブズ・アウト』三部作:それぞれの迷宮
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)

一般公開作
ミステリーの原点にして至高、ことアガサ・クリスティへの最高級のラブレター。 ゴシック調の屋敷で起きた老富豪の死。
嘘をつくと即座にゲロを吐くという「人体嘘発見器」のアナ・デ・アルマスと、南部訛りの名探偵ブノワ・ブランのデコボコ・コンビが最高にカワイカッコイイ!
SNS時代の価値観をクラシックな館ものに接続した、全方位に隙のない一級の娯楽作。
『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(2022)

Netflix独占
SNSのフォロワー数で脳が埋まった俗物どもを蹴散らせ!
今回の舞台は南国のリゾート。IT界の風雲児が仕掛けた「ミステリー・ゲーム」が、本物の惨劇へと変わっていく。
前作の重厚さから一転、ギラついた現代の虚無を「グラス・オニオン(ガラスの玉ねぎ)」に例えて剥いていく構成が見事。エドワード・ノートンの「浅はかな天才」っぷりも、実在の誰かを思い出す感じで絶品。
『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』(2025)

Netflix独占
わがブログにおける2025年Netflixベストの最新作。
今度の舞台は怪しげな教会。 これまでの偶然要素が招いた事件とは異なり、本作でブランが対峙するのは最初から緻密に計算された「知能犯」による犯行計画。
ホラー的な緊張感漂う中、ジョシュ・ブローリン演じるカリスマインチキ教主の圧倒的威圧感が物語を支配する。
特筆すべきは、ブノワと若き神父ジャドの初対面シーン。「天候(曇りから晴れ)が、その場の価値観の逆転を視覚的に説明する」という示唆的な演出のキレには脱帽させられる。
信仰という難しいテーマを「普遍的な優しさ」へと着地させるこの筆致こそが、『ナイブズ・アウト』シリーズの軽やかなユーモアの真骨頂だ。
結論:いいから気分よく騙されろ!

知的で、古典的で、それでいて最高に斬新。
『ナイブズ・アウト』シリーズは鑑賞後の「一本取られましたな!」という爽快感を約束してくれる、稀有なエンターテインメントだ。
三作とも映画史に残るレベルの超絶クオリティなのがさらに稀有。三作それぞれ独立した物語なので、どこから観ても問題無いのも勧めやすい点である。
という訳でさあ。あなたも名探偵ブノワ・ブランと共に、贅沢な知能ゲームに出かけてみませんか?

読んでくれてありがとう!
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