ホラー映画はただ怖いだけの時代を終え、今や社会の歪みや人間の本質を映し出す鏡となっています。
Netflixにはそんな「社会派ホラー」が特に豊富。
今回は、恐怖の中に鋭い視点が光るおすすめ3作品をご紹介します。

恐怖+見ごたえの欲張りセット
CAM
制作:2018
監督:ダニエル・ゴールドハーバー
主演:マデリン・ブルーワー、デヴォン・グレイ
ライブチャットで人気を集めるカムガール(エロ自撮り女子)のアリスがある日突然、自分そっくりの“偽アリス”にアカウントを乗っ取られる。しかもその偽物は、現実の彼女とは無関係に配信を続けていく。
ネットの闇とアイデンティティの崩壊が、じわじわと彼女を追い詰めていく。
エロ自撮り美女、受難
ドッペルゲンガーという古典的な怪奇ネタに、現代の「なりすまし」や「乗っ取り」という実害を絡めたアイデアが実に上手い。まさに古さと新しさの融合。
「それ私じゃないのに~!」と焦るアリスを尻目に、謎の偽アリスは「いかにもアリスがやりそうなネタ」をガンガン配信して本人以上の好評を得ていく。デジタルに進行するアイデンティティの乗っ取りは、SNSで自分を演じることに慣れすぎた世代には笑えないホラーだ。
しかも舞台はエロ産業。世間から白い目で見られがちな背景もあり、誰も助けてくれない孤独が恐怖に拍車をかける。しかしアリスはその孤独と真っ向立ち向かっていく。
自分らしさを奪われるおぞましさと、それでも自分であり続けようとする意志。その衝突を描いた本作は、時代の鏡としてもジャンルの挑戦としても語るに値する一作だ。
ジェラルドのゲーム
- 制作:2017年
- 監督:マイク・フラナガン
- 主演:カーラ・グギノ、ブルース・グリーンウッド、ヘンリー・トーマス
山奥の山荘で夫婦の営み中、手錠でベッドに繋がれたまま夫が急死。
悲鳴は誰にも聞こえない。ここに居ることは誰も知らない。
刻一刻と迫る飢え、渇き、そして死の恐怖。やがて彼女は何が現実かを見失っていく…。
おばちゃん、身動き取れなくなるの巻
SAW風の閉じ込め系ホラーかと思いきや、血と幻覚の中で主人公が向き合うのは過去のトラウマと自分自身。そこには生存に繋がる微かな可能性が潜む。
おばちゃんが身動きとれない話の何が面白いのかと訝しんでいたら、気づけばこちらの心が画面の前に拘束されていた。現実と虚構の境界が曖昧になる演出は、ホラーというより哲学的な味わいが深い。
女性の自立をテーマに据えながらも、説教臭さは皆無。むしろ痛快。観終わったあとに残るのは、恐怖よりも「よくぞここまでやったな…」という拍手だ。
監禁系スリラーの限界を変化球で突破した、静かなる傑作。
獣の棲む家
・制作年:2020年
・監督:レミ・ウィークス
・主演:ショペ・ディリス、ウンミ・モサク、マット・スミス
南スーダンから逃れてきた難民夫婦が、イギリスで与えられた一軒家に住み始める。
しかし壁の中には何かの気配。
そこにいるのは幽霊か、それとも別の何かか…。
やがて夫婦はその「何か」が、自分たちの過去から追ってきた存在と知ることになる。
トラウマが、壁の向こうからこちらを見ている
恐怖描写はさほどの鋭さはない。
真綿で首を締めるようなゾッとする演出は十分楽しめるが、ババーンとラスボスが画面に登場すると「え、それだけ?」と拍子抜けしてしまうやつだ。
だが、むしろこの映画の主役は“恐怖”じゃない。
難民という存在が、かわいそう枠でも迷惑枠でもなく、“生き残ってしまった者”として描かれる斬新な切り口がこの作品最大の魅力。
トラウマと罪悪感が家の中に染みつき、ホラー演出がそれをなぞる。誰にとっても怖いのは幽霊自体じゃなくて、過去と向き合うことなのだ。
ジャンル映画でありながら、社会の見方を更新する力を持った一本。
「移民」と言うワードが「叩くことが正義」のように扱われがちな現代にあってこそ、見る価値がある珠玉の一作。
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