Netflixで何を観るか迷っているなら、ちょっと耳を貸して頂きたい。
今回紹介するのは女性が主人公のNetflixオリジナル映画から、特に“ただ者じゃない”ホラー3本を厳選したものです。
女性の脆さ、そして強さが静かに響く。そんな映画を探している方にこそ届いてほしい記事です。
オキシジェン
制作:2021年
監督:アレクサンドル・アジャ
主演:メラニー・ロラン、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ
アジャ、流血を封印──でも恐怖は血より濃かった
目覚めると、そこは狭いコールドスリープ装置の中。
リズ(メラニー・ロラン)は記憶も曖昧なまま、酸素残量が刻一刻と減っていく閉鎖空間でサバイバルを強いられる。
外部との通信は途切れがち、頼れるのはAIの淡々とした声だけ。生き延びるために、彼女は己の過去と向き合い、脱出の鍵を探る。
アレクサンドル・アジャといえば、血みどろの『ハイテンション』で世界を戦慄させた男だが、本作で血飛沫は封印(ちょっとは出てくる)。
代わりに、閉所恐怖症をフルスロットルで刺激する心理戦にシフト。
狭いカプセル内の映像は、まるで観客の肺まで圧迫してくるような息苦しさだ。
メラニー・ロランの表情だけで物語を牽引する演技は、まるで酸素の薄い世界で火花を散らすような迫力。AI“ミロ”の冷静すぎる声(マチュー・アマルリック)も、絶妙に不安を煽る。アジャの「恐怖は生きる力」という信念が、流血描写の代わりに知性とサスペンスで炸裂している。
女性が極限状態で己の力を取り戻す姿は、どこか現代的な賛歌にも見えるが、押しつけがましさは皆無。
閉塞感の中で輝く人間の執念と、アジャの新境地にニヤリとさせられる一品だ。
アナイアレイション
制作:2018年
監督:アレックス・ガーランド
主演:ナタリー・ポートマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、オスカー・アイザック
侵略SFの皮をかぶった“自己分解ホラー”
行方不明だった夫が瀕死で帰還。
その原因が眠る謎の領域“シマー”の調査に志願した生物学者レナは、女性だけのチームでその異空間に足を踏み入れる。
虹色の霧に包まれた森、DNAがプリズムのように歪む生態系、そして「シマーに入ると記憶を失う」謎の現象──と、設定だけで胃がキリキリしてくる。
だが本作の真骨頂は、侵略SFの体裁を借りて“自分とは何か”を問う哲学的ホラーに仕上がっている点にある。
アレックス・ガーランド監督の振り切った理屈っぽさは今回も健在。『エクスマキナ』でAIの意識を解剖した男が、今度は人間のアイデンティティを分子レベルで分解してくる。
そのくせモンスター描写も抜かりなし。熊のようで熊じゃない“何か”の咆哮は、夜中に思い出すと眠れなくなるタイプのやつ。
「こんな難解なSF、誰が観るんだ」と言われても、観た者には確実に残る何かがある。
美しくも不気味な映像、静かな狂気、そして自分という存在の曖昧さ。
これは、観る者の細胞に問いかけてくる映画だ。傑作である。
パーフェクション
制作:2018年
監督:リチャード・シェパード
主演:アリソン・ウィリアムズ、ローガン・ブラウニング、スティーヴン・ウェバー
虫とゲロと切断と──それでも美しい狂気
かつて天才チェリストとして将来を嘱望されたシャーロットが、母の死を機に音楽界へ復帰。恩師のもとで出会った新星リジーと意気投合し、旅に出る。
が──バスの中でリジーが突如体調不良。ここから先は、観る者の胃袋が試される地獄の始まりだ。
リチャード・シェパードの演出は、遠慮という言葉を知らない。
セクハラやパワハラをホラーの衣で包んだ社会派の意図は見えるが、それを押し流すのは容赦なきショック描写の嵐だ。
虫! ゲロ! 切断! これでもかと畳み掛ける過激さは、まるで観客の脳をミキサーにかけるような勢い。
Netflixの「何でもアリ」な土壌がなければ、こんなバグった作品は生まれなかっただろう。
ハラスメントの寓意がやや直球すぎるきらいはある。だがラストのあの象徴的なシーンは、女性の強さと反逆の精神を刻みつける。
名作と呼ぶには粗削りだが、完璧を追い求める狂気とそれをぶち壊す痛快さが共存する。まるで毒入りカクテルのような魅力だ。Netflixの尖った個性が光る怪作。
Netflixには、まだまだ語りたくなる女性主人公の作品が眠っています。
今回の3選が、あなたの次に観る一本のヒントになれば幸いです。
他にもジャンル別おすすめ記事を公開中なので、ぜひそちらも覗いてみてください。
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