2019年は「令和」への改元や京都アニメーション放火事件など、記憶に刻まれる出来事が多い年でした。
そんな中でNetflixが放ったオリジナル作品たちは、ただ面白いだけじゃなくて心の奥に静かに残るものが多かった気がします。
今回はその中から「これは観てほしい」と思った5本を選びました。
🥇1位 マリッジ・ストーリー
制作:2019年
監督:ノア・バームバック
主演:スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー、ローラ・ダーン
見た後で人生観が変わる衝撃
舞台はニューヨークとロサンゼルス。
演出家の夫と女優の妻が、離婚をきっかけに互いの人生を再構築していく。
共同生活の終焉と親権争いが、弁護士を巻き込んだ代理戦争へと発展。物語は、愛の残骸を拾い集めるように進行する。
ローラ・ダーンとレイ・リオッタが火花を散らす法廷シーン、そして憎しみをぶつけ合う夫婦喧嘩のシーン。
ヒューマンドラマなのにバトルの迫力だけ『ゴジラvsビオランテ』で、瓦礫の下敷きになりそう。
だがそんな泥沼の果てに残るのは皮肉にも愛のかけら。静かに差し込む優しさが心に染み渡る。
痛みと優しさのバランスが絶妙すぎて、観終わった後に人生の取扱説明書を一枚渡された気分になる一作。
🥈2位 全裸監督(シーズン1)
制作:2019年
監督:武正晴
主演:山田孝之、森田望智
破天荒の極みAV監督
80年代末の東京。英語教材の押し売りから色々あってアダルトビデオ監督へと転身した村西は、検閲と倫理の壁をぶち破りながら仲間とともに“表現の自由”を掲げて突き進む。
起業、渡米、収監、保釈…と、人生のジェットコースターを全力疾走する男の物語は実話ベースとは思えないほどドラマティック。
舞台となる町並みはセットではなく建築されており、性描写は演出ではなく覚悟で貫かれている。制作陣の熱量は尋常ではない。
欲望と信念のあいだでむきだしに揺れる、つまり“全裸”の人間の姿がここまでエンタメとして昇華されるとは。
海外評価も非常に高い。これは日本の表現史における異端であり、誇りでもある。
🥉3位 ラブ,デス&ロボット(シーズン1)
制作:2019年
監督:ティム・ミラー(総監督)
主演:声優陣多数(エピソードごとに異なる)
映像表現の実験室に迷い込む
SF、ホラー、ファンタジー、コメディ…ジャンルも語り口もバラバラな短編アニメ18本を詰め込んだアンソロジー。
各話は10分前後と短く、視聴者は何が始まるか分からないまま次の扉を開け続けることになる。エロとグロと哲学が同居する世界観は、まるで映像表現の最先端を試す実験室だ。
中でも『わし座領域のかなた』は、エロ×ホラーの新境地を切り拓いた怪作。
『目撃者』はサイバーパンク無間地獄をトリッピーな映像で魅せる。
尖ってはいるがシーズン1はまだ”ジャンルの輪郭”が見えるぶん、意外ととっつきやすい。
脳が疲れるけど目は喜んでる。そんな稀有な体験が味わえる。
4位 マインドハンター シーズン2
制作:2019年
監督:デヴィッド・フィンチャー
主演:ジョナサン・グロフ、ホルト・マッキャラニー、アナ・トーヴ
狂気を知らずに狂気に勝てるのか?
1970年代末。
FBI行動科学課のホールデンとビルは、連続殺人犯の心理を解明すべく全米を股にかけて「人の皮かぶった外道」たちと対話を重ねる。シーズン1ラストで既に相当大変なことになっていたが、このシーズン2で物語はより陰鬱な深みへ。
主人公ホールデンの闇を理解したい欲求は、もはや知的好奇心というより沼に足を突っ込んで「意外と浅いかも」と言いながら沈んでいくような自傷的スリルに見えてくる。相棒ビルの家庭崩壊パートも地味に心を削る。
惜しむらくは、このシーズン2が製作費の都合で事実上の最終章となってしまったこと。
まだ語られるべき外道たちは山ほどいたはずなのに…。だが、だからこそこの終わり方がまるで未解決事件のような余韻を残す。
5位 ストレンジャー・シングス シーズン3
制作:2019年
監督:ダファー・ブラザーズ
主演:ミリー・ボビー・ブラウン、フィン・ウルフハード、デヴィッド・ハーバー
色彩豊かな異色シーズン
舞台は1985年、夏のホーキンス。
新設されたショッピングモールが街の空気を一変させ、子どもたちは恋とバイトとアイスクリームに忙殺される。
だがその裏でロシアの地下施設(いつ建造した?)が怪しげな実験を進行中。少年少女は再び友情と超能力と手作り兵器で世界の危機に立ち向かう!
シリーズ随一のポップさと能天気さが炸裂する本シーズン。
前作までのホラーやサスペンスを威勢よく捨て、青春群像喜劇に全振りする脅威の路線変更である。
特にスティーブとダスティンの凸凹コンビが、もはやスピンオフを要求したくなるほどの愛嬌。
ロシア兵とのバトルもホームアローン風味で、冷戦時代らしい緊張感は皆無。
次シーズンからのシリアスな展開の前夜祭としての位置づけもできるが、単体でも十分に魅力的。
笑って泣いてちょっとだけゾッとして、最後はアイスクリームが食べたくなる。
次点
エル・カミーノとアイリッシュマン
『エル・カミーノ』は脚本・演技・演出、どれを取っても申し分なく、TOP5入りにふさわしい完成度だった。
…が、ブレイキング・バッドを全話全シーズン履修済みでないと、物語の半分も理解できない仕様。もはや卒業生専用スピンオフと化しているため、万人向けとは言い難く泣く泣く選外に。
そして2019年といえば、Netflixが「これが我々の総力戦です」とばかりに送り出した超大作『アイリッシュマン』の年でもある。
だがこの作品、個人的にはスコセッシ組の同窓会にしか見えず、哀愁だけが濃縮されていてカタルシス皆無。観終わった後に残るのは重厚さよりも「みんな歳とったな…」という感慨だけだった。
そんなわけでNetflixの顔とも言える一本ではあるけれど、あえての選外。敬意はあるけど推しはしない。悪しからず。
Netflixは年々、作品の幅も深さも増しています。
今回紹介した5本は、2019年という節目の年にふさわしい“感情の記録”とも言えるでしょう。
他の年のベストや、ジャンル別のおすすめもぜひあわせてご覧ください。
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