通勤中でも家事中でも、本の世界に浸れるのがオーディブルの魅力。
本屋で「ぶ厚い…」と尻込みする大作も耳ならすっと入れるし、定額だから普段読まないジャンルにも挑戦できる。
耳から届く物語は、日常のすき間時間を小さな読書空間に変えてくれます。
今回紹介するのは2025年の映画公開予定の邦画サスペンス原作『爆弾』です。

あらすじ
制作:2023
著者:呉勝浩
東京のど真ん中、ある日突然謎の男が交番に現れる。
名はスズキタゴサク。年齢も職業も不明。
彼は「爆弾の場所を当てろ」というゲームを仕掛け、外せば即座に爆発するという。
爆弾の捜索に奔走する刑事たち。 卑屈な笑みを浮かべるタゴサク。 物語は「正義のありか」と「覚悟の意味」を問う熱を帯びていく。
バットマン不在のゴッサム
スズキタゴサクの無敵知能犯ぶりは、映画『ダークナイト』のジョーカーを彷彿とさせる。
カネや復讐など、他者から見て納得できる__つまりある意味では読者が安心できる__理屈の通った動機を持たず、ただひたすら不快なカオスを撒き散らす。 これはバットマンが居ないのにジョーカーがだけ東京に来ちゃった物語にも見える。
とはいえタゴサクとジョーカーには明確な相違点もある。 その一つが、タゴサクには「対話型の悪意」がある点だ。 ジョーカーなら爆破して高笑いして終わりだが、タゴサクは相手の反応を楽しみ会話の中で相手の価値観を削り取っていく。
彼の声は物理的な爆発よりも先に、こちらの思考を爆破する。 この「会話の爆弾」こそが本作の真骨頂で、読者は刑事たちと同じく、タゴサクの言葉に翻弄される。これが不気味で、そして妙にクセになるのだ。
正義の在処
そんな超人的な悪意に晒されて、主役側の登場人物…主に警察関係者の皆様方におかれましては、大変酷い目に遭う羽目になるわけで。
その緊張感が、オーディブル版では妙に生々しく響く。
男女ダブルナレーターという布陣が功を奏し、刑事の苛立ちも、被害者の恐怖も、声色の温度差で鮮やかに浮かび上がる。 男性ナレーターが女性キャラを演じるとき特有の「オネェ化」現象も回避され、耳が物語から弾き出される瞬間がない。特にタゴサクの卑屈なキモさは最高に不快(誉め言葉)。
オーディオブックという形式は活字よりも直接的に「声の暴力」を伝え、タゴサクの台詞が背筋を撫でる悪寒に変わる。これはもう、読書というより聴覚による劇場型犯罪の追体験だ。
そしてオーディブルなら2025年9月現在、続編『法廷占拠』も聴ける。連鎖する悪意をさらに追えるって訳だ。 オーディブル大勝利である。

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↑続編も最高におもしろい。しかもさらにシリーズ続きそうな終わり方。
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