『ヒックとドラゴン(実写版)』の感想です。
前代未聞の忠実度でCGアニメを実写に起こした一作。
感動的な物語は健在だが、忠実過ぎて「アニメ見ればよくね?」の疑問がつきまとう…。

トゥースはいつ見てもかわいい。
あらすじ

制作:2025年
監督:ディーン・デュボア
出演:メイソン・テイムス、ジェラルト・バトラー、ニック・フロスト
海と霧に閉ざされた北方の島。
そこに暮らすバイキングの少年ヒックは、ある夜の襲撃で一匹のドラゴンと出会う。
彼はそのドラゴンを仕留める代わりに密かに助け、やがて「トゥース」と名付けて絆を深めていく。
仲間や父親との軋轢が強まる中、ヒックは「敵」とされた存在と共に飛翔し、世界の見方を変えていく。
やがて村全体を揺るがす事件が起こり、少年の選択が未来を左右することになる。
完璧なトレース
伝説的傑作アニメ『ヒックとドラゴン』を実写化したこの一作。
戦争するのは簡単だ。
だが侵略者の立場に立って考えるのは難しい。
ましてや友達になるなんて、ほぼ不可能。
だがその不可能を若さと優しさで突破していくヒックとトゥースの姿は、なんとかファーストが幅を利かせ「異質なものは即排除」的な現代の風潮にこそ突き刺さる。
10年以上経ってもなお、そのメッセージは鮮烈だ。
そして何より驚くのは、アニメ版へのリスペクトが偏執的なまでに徹底されていること。
セリフも仕草も、ほぼ完璧に再現。
「剣と盾で迷ったらまずは盾を選べ!」という印象的なセリフから、地面に倒れたヒックをアスティがアックスの柄で小突く小ネタまで、すべてが網羅されている。
極めつけは飛行訓練シーン。
調子に乗ったヒックが墜落寸前、マニュアルは風で読めない。
ヒックはマニュアルを投げ捨て、トゥースと一体化して超スピード飛行!
大音量でテーマ曲が鳴り響き、見事にピンチ脱出。
あの伝説の瞬間を、現代の映像技術で完璧に再現してしまった。眼福の極みである。
ただ、あまりに忠実すぎて、ふと頭をもたげる疑問があるのだ。
これ作る意味あった?
そう、あまりに完璧にアニメ版を踏襲しているせいで、「この映画、作る意味あったの?」というシンプルかつ残酷な問いが浮かんでしまう。
ディズニーの実写化企画のように独自色を打ち出すならまだしも、『ヒック』はアニメ版に一切手を加えず、ただ実写化することだけに全力投球。
CGアニメ版の完成度の高さを強く理解しているからこその合理的判断だろう。
潔いといえば潔いが、潔すぎて逆に興ざめだ。
もちろん、飛行シーンやバトルシーンなどの迫力に映像面での恩恵は確かにある。
だがアニメ版だって当時の技術の粋を集めた完成度で、すでに「ほぼ完璧」だった。
もし原作が1950年代のモノクロ作品だったなら、現代技術での実写化には大きな意義があっただろう。だが現実はそうではない。
初見の観客には強くおすすめできる。
映像の迫力、物語の普遍性、そして「敵と友になる」というテーマの鮮烈さは今なお胸を打つ。
だがアニメ版を10年以上愛してきた身としては、どうしても「これならアニメ見ればよくね?」という感想が先に出てしまう。
まあ、完璧なトレースだからこそ作品の普遍性が改めて証明されたのも事実だ。
実写版は「新しい何か」を提示するのではなく「古びないもの」を再確認させる装置だと考えると、そこに意義を見出すことが出来る。
コメント