『悪女/AKUJO』感想 愛も尊厳も奪われた女の復讐譚 ワンカット長回しアクションは必見!

哀しさとバイオレンスの理想的な融合ね。

評価 :4/5。


人生に容赦なし

制作:2017
監督:チョン・ビョンギル
主演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン

出典:TMDB

物語は、幼い頃に目の前で父親を惨殺された少女スクヒが、その復讐心を燃料にマフィアのボスに拾われたことで始まる。
血と硝煙にまみれた戦闘マシンとして徹底的に育成されるスクヒ。その時点で人生のエンドロールが見えそうな暗黒街道だ。

しかしスクヒとボスはまさかの恋に落ち、堅気になって第二の人生を謳歌しようとする。

これにて一件落着…かと思われたその矢先、お約束の組織間抗争に巻き込まれ、ボスが凄惨な死を遂げる。

愛と平穏という幻想を粉砕されたスクヒは、長年の特訓で磨き上げられた殺人スキルを文字通り全開にし、画面を血と死体の山で埋め尽くすウルトラバイオレンスの復讐劇を敢行。

しかし復讐の熱が冷めやらぬうちに、今度はその途轍もない戦闘能力が政府の秘密組織の目にとまり、彼女はスパイという名の飼い犬として“第三の人生”へと否応なく突き進むことになる。

主人公の愛と尊厳が奪われ続ける壮絶な数奇っぷりに、もう乾いた笑いを漏らすしかない。

 

 

撮影そのものが超絶アクション

本作を語る上で避けて通れないのは、その狂気の沙汰としか思えないアクションだ。

特に冒頭、スクヒが敵のアジトに単身乗り込む長回しワンカットのファイトシーンには度肝を抜かれる。
カメラがスクヒの主観視点と三人称視点をシームレスに行き来し、まるでゲームの主人公視点に放り込まれたかのような没入感を強制してくる。
刀、銃、素手、何でもアリの殺し合いを、あたかも観客自身が体感させられるこの手法は「よくぞコレを本気でやったな」と制作陣の執念に思わず拍手を送らずにはいられない。
練習風景を想像するだけで、腰が痛くなるレベルだ。

 

「少女が凄腕暗殺者に仕立て上げられる」というプロットは、往年の名作『ニキータ』と比較したくなる。だがあのフランス映画特有のメランコリックでウェットなムードは、この韓国版では一切合切そぎ落とされている。
代わりに主人公を突き動かす原動力は、徹底的に「復讐」と「愛の喪失」というダークな韓国映画のフォーマットに変換。
それは同時に、彼女の人生がいかに「罪」にまみれているかという悲劇性を際立たせている。

スクヒは愛を求め安寧を望みながらも、そのたびに誰かの都合の良い「殺人道具」として利用され人生のレールを敷き直される。
その容赦のない地獄巡りのようなストーリーは、ある意味で清々しいほどのシニカルさに満ちている。

 

 

悲劇と美学が同居する業のエンドレス

『悪女/AKUJO』は単なるバイオレンス映画の枠を超え、一人の女性が「生きるため」あるいは「愛するため」に受ける血と痛みを描き切る。

その悲劇性は深いが、同時にアクションのキレがこの壮絶なストーリーに退廃的な美学を与えている。

観終わった後に残るのはスクヒの人生に対する同情と、スクリーンに焼き付いた狂気的なアクションの残像だ。
血と暴力の中に愛を求め続けた女の物語は、紛れもなく現代アクション映画の金字塔のひとつとして語り継がれるべきだ。

 

 

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