
ミスリーディング系どんでん返しの傑作よ。
スペイン発のちょいコワスリラー
制作:2012年
監督:オリオル・パウロ
主演:ホセ・コロナド/ウーゴ・シルバ/ベレン・ルエダ

嵐の夜、死体安置所から一体の女性の遺体が忽然と姿を消す。
安置所の警備員は「何か」を目撃した直後に恐怖で錯乱し、車道へ飛び出して重体。
現場にかけつけた警察は調査を開始し、まずは失踪した遺体の夫を呼び出す。
しかしこの男がどうにも挙動不審。質問に答えるたびに汗をかき、視線は泳ぎ、観客の「お前、何か隠してるだろ」センサーをビンビンに刺激する。
死体の行方は?
夫の秘密とは?
…というお話だ。
さて、この映画の面白さは「ジャンルの正体不明感」に尽きる。
ホラーかと思えばサスペンス、サスペンスかと思えばゴシック怪談、そして時折ラブストーリー感まで漂わせる。
観客は「死体が歩き出したのか?」「黒魔術か?」「臓器売買か?」と推理を重ねる。
まるで監督が仕掛けた迷路の中で、出口にたどり着く前に何度も壁に頭をぶつけさせるような感覚だ。
さらに死体置き場という舞台が秀逸。
冷たい蛍光灯、無機質な廊下、金属の引き出し。
そこに人間の欲望や邪悪さが持ち込まれると、ただの冷蔵庫が一気に地獄の入口に見えてくる。
夫の挙動不審ぶりももはや「怪しい」を通り越して「お前が犯人じゃなかったら逆に驚く」レベルで、観客の疑念を煽る演技合戦が繰り広げられる。
「死体が消えた」というシンプルな謎を起点に、観客を翻弄し続けるスリラーの快作。
ホラー的な恐怖とサスペンス的な緊張感を巧みにブレンドし、最後まで「次の一手」を読ませない。
スペイン映画らしい湿度と皮肉をまといながら、観終わった後には「やられた」と苦笑いするしかない。これは観客をいい意味で騙すことに全力を注いだ、上質な“ちょいコワ”エンタメである。

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