『クロール-凶暴領域-』家の中 ワニがいっぱい もうダメだ

今回は『クロール-凶暴領域-』です。
天才にして実力派ホラー監督アレクサンドル・アジャの新作。そして傑作!

ただのB級モンスターホラーで消費するには惜しい、アジャらしいパワフルな一作!

評価 :4/5。

洪水だけでも大変なのに、ワニまで来たら?

2019年 アメリカ
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:カヤ・スコデラーリオ、バリー・ペッパー

出典:TMDB

巨大なハリケーンが迫るフロリダ。
電話がつながらない父の安否を確かめに、女子大生のヘイリーは嵐のなか久しぶりに実家に戻る。

しかし嵐で洪水が起き、実家およびそのご近所は狂暴な肉食ワニが跋扈する地獄になり果てていた。
果たしてヘイリーは父親を見つけ、この地獄を脱出することが出来るのか!?

…というお話です『クロール 狂暴領域』。

もうね、一言で言って素晴らしかったです。
間違いなくアレクサンドル・アジャの最高傑作です。

もうサメは古い。これからはワニ。ワニです。

 

 

極限状態でパワーを増す絆

冗談はさておき、本作は本当に完成度が高い。
その面白さを支えているのは、限定空間に凶悪モンスターと閉じ込められるというホラー要素と、長年の確執で分かたれていた父親と娘が絆を取り戻すという家族ドラマ要素がしっかり”噛み“合っているという点に尽きます。

映画が始まって10分でヘイリーとその父親は絶体絶命のピンチに陥ります。
地下室に閉じ込められ、周囲はワニだらけ。
あげく嵐のせいで地下室が浸水し、刻一刻と水位が上がってくる。
食われて死ぬかおぼれて死ぬか…いずれにせよ万にひとつも生存の望みがない極限状態です。

私ならここで
「そんなに悪くない人生だったな\(^o^)/オワタ」
と戦意喪失してしまうところですが、ヘイリーとその父親は違う。
彼女らはお互いを励まし合いながら、猛然と事態に挑んでいきます。

 

出典:TMDB

次から次へと襲いくる危機にヘイリーたちは幾度もへこたれる。
ちょくちょくワニに噛まれるので、肉体的ダメージも深刻なレベルで蓄積。

しかしそれでも決してあきらめないのは、一人じゃなくて二人だから。
「こいつだけは絶ッ対に死なせるわけにはいかない!」
という相手=家族と一緒だからこそ、不屈の精神力が湧いてくるです。

要するに、主人公たちの危機脱出に家族ドラマという理由付けを配することで、物語が盤石の説得力を持つように工夫されているのです。
このどっしりした構成は素晴らしいの一言に尽きる!

 

 

丁寧な恐怖描写を押さえる職人ぶり

ベテランホラー監督ならではの鋭い演出もステキ。
88分という短めの上映時間の中に、一切無駄がなく恐怖が詰め込まれています。もうキレッキレです。

たとえばドッキリ描写。

本作はタメてタメて…突然ショッキングなモノが大写し!!
というホラーの定石を敢えて排し、逆に観客の予期せぬタイミングでいきなり恐怖が襲ってくる系の演出が徹底されています。

1秒後には何が起きているか、まったく見当つかない。
いつどんな危機が襲い来るか、まったく予想できない。
この凄まじい緊張感が本作を純粋に恐い映画たらしめています。

予測不能のタイミングで敵が襲ってくる作風は明らかに『ジョーズ』の系譜ですが…それを言ったら『ジョーズ』の影響を受けていないホラー映画など皆無なので言うだけ野暮ってもんですよね。
なお『ジョーズ』へのリスペクトは、ヘイリーのワゴンに載ってたサメのマスコットで提示済み。
こういう細やかな気遣いにこだわるところがベテランの風格ですよねアレクサンドル・アジャ。

 

狭い一軒家だけで話が展開するのに、二転三転する状況変化で退屈を感じさせない構成も見事。
特に、いよいよ水位が上がって町全体が水没してからの描写がスゴい。
日常生活の場がワニという非日常に浸食される恐怖もさることながら、家の中がモンスターホラーの舞台として完璧に機能しているのがステキすぎます。

出色なのは、予告編でも印象的だったシャワールームのシーン
あんな狭い場所にワニと閉じ込められたらMK5(マジで食われる5秒前)としか言いようがありません。
絶体絶命感をあおる俯瞰視点もクールで、本作最強の名シーンだと思います。

リアルワニワニパニック状態から、親子の絆を武器に脱出を図る極限状態ホラー『クロール -狂暴領域-』。
『オキシジェン』や『ハイテンション』にも通底する、恐怖こそ生きる原動力というアジャ監督の哲学が炸裂しています。
 


 

 

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