今回はAmazonプライムビデオで観られるサスペンス/ミステリー映画を3本、厳選しました。
不穏な展開、予測不能のラスト。
きっと心を揺さぶられる一本に出会えるはずです。

『シンプルフェイバー』の続編が実現するなんて、これだけでもう本当にサンキューAmazonプライムビデオよ。
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制作:2023
監督:黒沢清
主演:菅田将暉、古川琴音
都市の片隅で転売を生業とする若者(菅田将暉)。
彼は新商品や限定グッズを買い占め、ネット上で高値で売りさばくことで日銭を稼いでいた。
しかしその手口に恨みを抱いた人々が現れ、周囲に不穏な影が忍び寄る。
やがて彼は集団的な狂気のターゲットになり、逃げ場のない状況へと追い込まれるのだった。
黒沢的解釈の”転売屋の末路”
この映画の面白さは「転売屋=人類最下層」という誰もが了解済の図式を、わざわざホラーとサスペンスの泥沼に沈め直したところにある。
普通なら「転売屋ざまあ」で済む話を、わざわざカオス化して二時間もかけて突きつけてくるのだ。
しかも転売屋を追い詰めるのは正義の味方ではなく、社会の最下層のさらに下――この世の澱みのような連中。つまり「クズを裁くのはクズ」という、誰も得しない地獄絵図が展開するわけだ。
観ているこちらは「いや、もう勝手に潰し合ってくれ」と突っ込みたくなるが、黒沢的カメラワークと音響がそれを荘厳に見せてしまう。
人が死ぬ瞬間をいちいちコミカルに描くところまでいつもの黒沢魂が行き届く。痛っ!て言いながらそのまま死ぬおっさんとか、地面に叩きつけ土下座する兄ちゃんとか。
転売屋が社会の底に沈殿する不満や怨念を磁石のように吸い寄せる…そして行き着く先はもちろん地獄。
だがそれを敢えて教訓的に描かず、もっと根源的な人間の業として浮彫にさせていく。不条理で鋭い黒沢エンジンは今日も絶好調だ。
鑑定士と顔の無い管理人

制作:2013年
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
主演:ジェフリー・ラッシュ/ジム・スタージェス/シルヴィア・フークス
老練な美術鑑定士ヴァージルは、名声はあっても人間関係には極端に不器用な孤高の男。そして高齢童貞。
ある日彼は謎めいた依頼人クレアから美術品の鑑定を頼まれる。しかし彼女は決して姿を現さない。電話越しの声と閉ざされた扉だけが彼女についてのすべてだ。
ヴァージルは次第にその「見えない依頼人」に心惹かれていき、屋敷に眠る美術品の数々とともに彼女の秘密に迫っていく。
映画史上類を見ない「尾を引くラスト」
童貞映画界の巨匠中の巨匠、ジュゼッペ・トルナトーレ監督。
『マレーナ』で童貞少年を、『海の上のピアニスト』で童貞天才を描いた彼が、今度は高齢童貞サスペンスという新ジャンルを開拓。
もはや「ベギラマ習得」程度では済まない、人生丸ごとレベルのこじらせっぷりである。
さらに音楽は故エンニオ・モリコーネ。『ニューシネマパラダイス』の黄金タッグが再び手を組んだ時点で、すでに名作が確定しているようなものだ。
だがその甘美な音楽さえも、驚愕のどんでん返しで観客の足元をすくうのだから油断ならない。
そして何と言ってもラストシーン。
ハッピーエンドかバッドエンドか、観る者によって解釈は真逆に転ぶ。だがどちらにせよ映画史上最高峰の余韻が残るラストと言って間違いないだろう。
「人は幻影に恋をする生き物だ」という真理を高齢童貞の視点から突きつける、皮肉と美学が同居する稀有な一作。
シンプル・フェイバー

制作:2018年
監督:ポール・フェイグ
主演:アナ・ケンドリック/ブレイク・ライブリー/ヘンリー・ゴールディング
郊外に暮らすシングルマザーのステファニーは、料理動画を配信するほどの“良い子ちゃん”気質。
そんな彼女が出会ったのは、都会的で謎めいたファッション業界の女王エミリー。
二人は正反対の性格ながら奇妙な友情を育むが、ある日エミリーが忽然と姿を消す。
納得のいかないステファニーは独自に調査を始めるが、やがて夫や同僚、そして自分自身すら疑わざるを得ない状況に追い込まれていく。
アナケン史上最高にカワイイ、そして最高に騙される
この映画の最大の功労者は言うまでもなくアナ・ケンドリック。
普通に笑っても苦笑いに見える稀有な顔芸を持つ彼女が、困惑と憧れの入り混じったステファニーを演じるともう役と俳優の境界線が消える。
適役すぎて「アナケンじゃなければ映画が成立しない」と断言しても誰も文句は言うまい。
そして物語は二転三転どころか、もはや転がりすぎのローリング展開。観客は「誰が仕掛け人なのか」を延々と考えさせられ、最後の一撃で「してやられた!」と叫ぶ羽目になる。
さらにコメディ要素が絶妙。
アナケンの百面相はもちろん、言葉遊びや小道具の使い方まで洒脱でシリアスな場面すらどこか軽やかだ。
サスペンスの皮をかぶったドタバタコメディ、あるいはその逆なのである。
男性キャラたちの「憎めない役立たず」っぷりも、いかにもフェイグ監督らしさが滲む。
もし別の監督が撮っていたら『ガール・オン・ザ・トレイン』的な湿度120%の女の戦いになっていたかもしれないが、本作ではカラッとした笑いが大勝利だ。
「田舎ママにしてはアナケン垢抜けすぎ」だの「ミステリ要素が強引過ぎ」だの、突っ込みどころは山ほどある…だがそんな細かいことはどうでもいい。
アナケンが史上最高にカワイイ。それだけで本作は十分に成立しているし、観客は眼福とともに心地よい裏切りを味わえるのだ。
なお長らく企画レベルで留まっていた続編が、まさかのAmazon出資で実現。
『アナザー・シンプル・フェイバー』。タイトルからしてもうオシャレ。そしてこっちも最高。

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