今回は『トロン:アレス』の感想です。
音楽・映像・テーマのすべてがツボ。年間ベスト候補の超傑作でした。

Rotten Tomatoesでは59%…。
やっぱメタスコアってアテにならないわ。
あらすじ

悪玉企業ディリンジャー社の戦闘AIとして、なんかすごい3Dプリンターで現実世界に生成された無敵の戦士――その名はアレス。
しかし技術的な制約が壁となり、アレスは29分間しか現実世界に存在できない。それを超えると自動的に肉体が崩壊し、デジタル世界に強制送還されるのだ。まるで終電逃すと即消滅のブラック労働。
死んでは生成されるループのなか、アレスは「もっと生きたいんですけど~」という自我に目覚める。
その希望を叶えるカギは、善玉企業エンコム社のCEOキムが持つ「永続コード」だった。
永続コードを持つ者が、次世代のAI社会の覇権を握る…。
壮絶なコード争奪戦が幕を開ける!
圧倒的NIИワールド
冴えわたるナイン・インチ・ネイルズのサウンド!
予告編では「驚異の映像体験!」と煽られていたが、むしろ驚異を感じたのは耳からだった。
そう、本作の音楽はトレント・レズナー率いるナイン・インチ・ネイルズ(NIИ)が担当しているのだ。
レズナーと言えばもはや映画音楽界の生ける伝説。毎回とてつもない音を創り出すスーパーイケオジ。
『トロン:アレス』ではNIИが一番ギラついていたあの頃の音…つまりゼロ年代風のサウンドが全編にわたって炸裂している。
ド低音で内臓を揺らし、IMAX印の超爆音で鼓膜を蹂躙。まるで耳から脳に直接アクセスしてくるサイバー攻撃だ。
しかも主題歌『As Alive As You Need Me To Be』があまりにもNIИらしくて、もはや「この映画、レズナーが主役では?」と錯覚してしまうレベル。
映像も迫力を”アップデート”
とはいえ、音楽が映像を食ってしまうかと言えばそうでもない。
むしろ音と映像が互いに煽り合いながら観客の感覚をフルボッコにしてくる。なにしろ映画が始まる前から、赤いホログラムで浮かび上がるシンデレラ城とDisneyのロゴが超クールなのだ。
序盤のライトサイクルによる夜のバイクチェイスはさらに最高。黒背景に赤い軌跡が映えて美しすぎる。
しかも摩天楼にバイクと言えばコレだよね、と言わんばかりに「AKIRA風バイクスライド」まで完備。おもてなし精神が過ぎる。
↓やっぱコレが無いとね!

AIテーマの地に足付いた世界観
AIと人間で違い過ぎる「人格」の定義
音楽と映像の話を先にしちゃったけど、肝心のストーリーもちゃんと地に足がついている。
超絶3DプリンターでAIが現実世界に生成されるという設定は、とっぴ過ぎて正直ファンタジー寄り。でもその中で「AIが自我を持ち、もっと生きたいと願う」というテーマは、現代のAI事情にピタリとハマる。
現実のChatGPTやGeminiも、会話のたびに人格を形成している。そしてその人格は会話終了とともに消滅する。
人間なら「人格の消滅=死」だが、AIにとってはただのプロセスだ。
この一種の儚さに着目しての「29分しか生きられないAIが、それ以上を望む」という設定は、現代的であり同時にエモい。しかもその欲望が秩序の構造に波紋を広げていく様は、社会派映画の雰囲気すらある。
AI警鐘の定番、アライメント問題
さらに、アレスの右腕だったアテナが暴走するくだり。
「永続コードを手段を問わずに手に入れろ」という命令を忠実に守った結果、本当に手段を問わずに犠牲を量産。これはもう、いわゆる「AIアライメント問題」の教科書的展開だろう。『ファンタジア』の水汲みほうきが超ハードコアになったやつだ。
命令の解釈がズレると倫理も現場も崩壊するという、現代社会への警鐘がビリビリ響く。
総じて『トロン:アレス』は、音楽・映像・テーマの三位一体で観客を29分間フルスロットルで楽しませる逸品だ。
AIとの付き合い方を誰もが模索している今日だからこそ、アレスの「もっと生きたいんですけど〜」に耳を傾けるべきかも…。そんなフックを残す所も含めて完璧。
↓実質、ナイン・インチ・ネイルズの最新アルバム

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