『透明人間』怖いだけじゃない 繊細な心理描写と現代的な女性賛歌

今回は『透明人間』です。

シリーズ(ユニバース)化がポシャって惜しまれる傑作。

評価 :4/5。

あらすじ

出典:TMDB

制作:2020
監督:リー・ワネル
主演:エリザベス・モス、オリヴァー・ジャクソン=コーエン、アルディス・ホッジ

サンフランシスコ郊外。
主人公セシリア(エリザベス・モス)は、極度のDV気質を持つ元恋人エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の邸宅から命からがら逃げ出す。
その後恋人は自殺したと報じられるが、セシリアはなぜか彼がまだ生きている、それどころか透明になって自分を監視し追い詰めているという恐怖を感じ始める。

セシリアの周囲で次々と不可解な出来事が起こり、そのせいで彼女は精神的に追い詰められ、ついには殺人容疑をかけられる事態に陥る。

 

誰かいる?いや居ない?

ユニバーサルの古典ホラーキャラを現代に蘇らせ、ホラー版アベンジャーズ「ダークユニバース」を爆誕させるはずだった壮大な計画が、トム・クルーズ版『ハムナプトラ』の爆死でド派手に頓挫したのが2017年のこと。
そこから立ち上がったのが、この単独リブート、リー・ワネル監督による『透明人間』だ。

旧作の「科学者の傲慢さが生んだ怪物」という切り口から一転、DV被害者の心理面に焦点を絞った。
これが見事に現代社会の空気を捉えていて秀逸だ。

主人公セシリアを演じるエリザベス・モスの存在感がまず出色。
周囲から「元カレDVのせいで精神的に不安定」と決めつけられる中、見えない何かに追い詰められていく。この構図は観ているこっちまで「もしかして本当に誰もいないんじゃね?という疑心暗鬼に陥らせるからタチが悪い。
追い詰められて徐々に正気を失っていく姿は、従来のデカパイ揺らしながら逃げ惑うファイナルガールちゃんとは一線を画す、精神的に生きるか死ぬかを見せつけるコンセプトだ。

そしてワネル監督の演出がまたニクい。
画面の隅の空っぽの空間、一瞬止まるドアノブ、わずかに揺れる空気。その見えない存在の気配を、カメラワークと怖すぎるBGMで見事に表現する。

 

渾身のラスト

「どうせラストは、実は生きてた元カレがモジモジくんタイツを着て現れるんだろ?」という誰もが予想する展開。
そんな陳腐な予想をあざ笑うかのような終盤の展開、そしてラストのひとオチは必見だ。

古典的な題材を現代的なDVの視点からアップデートし、徹底的に主人公の「被害者としての視点」に寄り添う。その上でラストの切り返しに至る展開は、カタルシスと同時に「やられたらやり返せ。ただしスマートにな」という、極めて現代的なメッセージを提示している。

古典のリブートでありながら、現代ホラーの最高到達点の一つ。
ダークユニバースはポシャったが、この『透明人間』は単作でも傑作!

 

 

 

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