今回は『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』です。

最低人間の容赦なき最低ぶり
あらすじ

制作:2017年
監督:ファティ・アキン
主演:ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、カトリン・アイラー=ベッカー
1970年代、西ドイツ。
場末の安酒場「ゴールデン・グローブ」に通う孤独なアルコール依存症の男、フリッツ・ホンカ。
彼はその店で知り合った中高年の女性たちを次々と自宅の屋根裏部屋で殺害していく。
ヒーロー性ゼロのクズ犯罪者
犯罪映画といえば我々は『ジョーカー』のように、主人公が悪の果てにカリスマとして覚醒する様なロマンを求める。
だが本作のホンカときたら、犯罪者主人公のクセにそんなクールさとは対極だ。何しろ彼は最初から最後まで何の考えもなく、ただ「真性のクズ」であり続けるのだ。
彼の犯罪にカタルシスは一切ない。目的すらない。
あるのは「めんどくさいから殺す」程度の、人間性の搾りカスのような意思だけである。
くたびれた家具、チープな酒、とにかく臭そうな底辺の空気がそれを彩る。
マジで何なんだこの世界観。
最底辺が「人間って何?」を喚起する
ファティ・アキン監督はこのどうしようもない男の人生を、妙に粘着質で時にに過剰なユーモアを交えながら描き出す。
ホンカが殺人を犯す際のグダグダっぷり。
死体をノコギリで解体する際の「うわ、めんどくさっ」という表情。
そしてそんなホンカを何故か受け容れてしまう安酒場の客たち。
誰も彼もが人生の敗残者として燻っている。
そのあまりに徹底した「底辺」の描写には、むしろ清々しいほどの重厚さがある。観る側は彼らの低俗な会話と醜悪な行動にゲンナリし、気づけば「これ、いつ終わるんだよ…」と呟くハメになる…。
だがその一歩手前でアキン監督は、彼の人生を滑稽な悲劇として昇華させてみせる。
単なる猟奇殺人犯の物語として切り捨てるのは簡単だが、この映画が描くのは思想なき悪、絶望さえ無い真の孤独のポートレートだ。
観客を不快にさせることに一点の曇りもない、そのあまりに純度の高い「最低」さにこそ唯一無二の魅力が宿る。
映画という表現の極限を覗き込むという意味では間違いなく一見の価値がある、真の暗黒系傑作だ。

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