『ハドソン川の奇跡』英雄の定義を問い直す、静かなる着水

今回はイーストウッド得意の実話系人間賛歌『ハドソン川の奇跡』です。

余りにも手堅い作り…さすがね巨匠。

評価 :4/5。

あらすじ

出典:TMDB

制作:2016年
監督:クリント・イーストウッド
主演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー

2009年1月。
ニューヨーク発のUSエアウェイズ1549便は離陸直後に鳥と衝突し、両エンジンが停止してしまう。
都市部への墜落という最悪の事態が目前に迫るなか、機長サレンバーガーはハドソン川への不時着水を即断。乗客155名全員が生還するという奇跡を成し遂げる。

事件後彼は英雄視されるが、「空港に戻れたのでは?」という疑念が浮上。
国家運輸安全委員会による調査が始まり、サレンバーガーは一転して容疑者のような扱いを受けるのだった。

 

 

最後まで残る機長の背中

アメリカ礼賛映画に絶対しないという覚悟

実話ベースの映画と聞くと「またアメリカの自己陶酔か」と身構えてしまう。
なにしろ同じトム・ハンクス主演の、同じく実話ベース映画『キャプテン・フィリップス』がある。あの映画でトム・ハンクスは海賊に毅然と立ち向かったが、背景の政治経済はスルー&英雄像だけがブクブクと肥大化。めっちゃ偏った「アメリカ凄い!」映画だった…。
そんな前科があるからこそ、今回も「またかよ」と思っちゃうのも無理なくない?

ところがどっこい、『ハドソン川の奇跡』はその逆を突いてくる。
冒頭から「本当に英雄だったのか?」と主人公に疑いの目が向けられる展開。イーストウッド監督、あんたまだ牙を持ってたのか。

しかも着水の瞬間を複数の視点で何度も再現するという『羅生門』仕様の構造。これにより観客もまた「真相」を様々なアングルで検証することになる。
200秒の出来事にこれだけの緊張感を持たせるとは、さすが巨匠の手腕と言わざるを得ない。

 

奇蹟と英雄

沈みゆく機体に最後まで残るサレンバーガーの姿も印象深い。
その昔、韓国セウォル号の船長が乗客を置き去りにしてパンツ一丁で逃げた話を知っていると、なおさらこのシーンが胸に刺さる。人間の尊厳ってこういうことだよな、と。

甘ったるい美談に寄せない展開も良き。
絶対に金出したくない保険会社による執拗な追及、エンジンが実は動いていたかもしれないという疑惑、そしてそれを覆す冷静な反論。
サレンバーガーは英雄である前に、ただの人間として描かれる。

それでも「あなたは英雄です」という賞賛の言葉に対して、最後に彼が返す「みんなのお陰です」というセリフ。これこそ本作の魂だろう。
奇跡とはひとりの英雄ではなく、関わったすべての人間の連携によって生まれるものだというメッセージ。イーストウッドは静かに、しかし確実に人間讃歌を奏でている。

『ハドソン川の奇跡』はメイクあめりかグレートあげいん!な薄っぺら英雄神話ではなく、英雄という言葉の意味を問い直す映画だ。
トム・ハンクスの演技も、イーストウッドの演出も、すべてがその問いに奉仕している。力作。

 

 

 

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