『スター・ウォーズ』シリーズはあまりに世界観がガッチリ形成されているため、続編を作るたびに過去作と矛盾が出ないように配慮するのが大変だと言う…。
そんな中、あえてその聖域を日本の腕利きアニメスタジオに丸投げし「お前らの”らしさ”を見せてみろ」と野放しにした実験作。それが『スター・ウォーズ:ビジョンズ』だ。
一話15分というタイトな短編集でありながらその制約が逆に個性を煮詰め、結果として「銀河史のアノ部分と矛盾する」だの「スカイウォーカーの血筋がどうこう」だののオタクの揚げ足取りを盛大にぶっちぎる、非常に勢いのあるアニメが爆誕した。
今回はそんな『ビジョンズ シーズン1』のなかでも、特にインパクトが強烈だった3篇を紹介したい!

この三つ以外も傑作揃い。『村の花嫁』とか。
The Duel

村を搾取するならず者を、流れの剣豪が退治する。
このあらすじだけ聞けば「それもう『スター・ウォーズ』じゃなくて『用心棒』ですよね?」だ。
だが、そこが肝だ。
『スター・ウォーズ』の原点が黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』にインスパイアされているという有名なトリビアを、制作陣は「わかった、じゃあ本気で黒澤明を逆輸入するわ」という逆ギレ混じりに短編へと昇華した。
白黒フィルム特有のざらついた画風を最新鋭のCGアニメでわざわざ再現するこの無駄な凝りよう。読めないフォントでデカデカとタイトルが表示される謎演出など、観客の「なにこれ?」を敢えて誘いつつ無視する特異な空気感だ。
ギミックのアイデアもクール。
「唐傘ライトセーバー大回転」「虚無僧ドロイド」「念力真剣白刃取り」など、日本人じゃないと思い付かないであろう奇想天外なSF×時代劇要素が、15分という尺に限界まで詰め込まれている。
制作した神風動画は『ニンジャバットマン』でも、アメコミ×時代劇を「バカバカしさの壁」を突き抜けるまでぶち込んだ実績があるスタジオだ。その「ぱっと見バカっぽいけど真摯」という黄金律をタイトに楽しめる一編。
The Twins

強大すぎる力を巡って、フォースの使い手の双子が威勢の良い大喧嘩をぶちかます「ジェダイ版『キルラキル』」。
制作スタジオはTRIGGER。『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』や『天元突破グレンラガン』で知られる、元気いっぱいの映像を得意とする元気いっぱい製作陣だ。
案の定、このスター・ウォーズ短編も当然のように元気いっぱい。
TRIGGER名物である再現なくパワァアップする悪役とそれを上回る主人公という仁義なきパワァアップ合戦が、十数分という短い尺にギュッと圧縮されている。
ストーリー説明は野暮とばかりに切り捨て、主人公のカレがひたすら早口で状況説明する演出も、このスタジオ特有のスピード感を体現している。
ライトセーバーの柄からビームが鞭状に生えたり、X-ウイングのアレをああしたり、その斬新かつぶっ飛んだ発想の勝利を味わえる逸品。
9人目のジェダイ

謎めいた人物「辺境伯」に導かれ、8人のジェダイがとある惑星に集められる。今は失われた古代のジェダイ武器「ライトセーバー」を託すためだと言う…。
一方ライトセーバーを鍛造する鍛冶屋の娘カーラは、出来上がった剣を持って謎の追っ手から逃げることに。
日本を代表する超大手アニメスタジオ、Production I.G。
『攻殻機動隊SC』や『PSYCHO-PASS』などのソリッドな世界観の構築に長ける同スタジオは、スター・ウォーズの土壌でもそのソリッドぶりを発揮…と言うより、その「王者の自信」を遠慮なく叩きつけてきた。
何しろ、短篇なのに完結させる気がゼロ。
登場人物の掘り下げも世界観の説明も「全てこれから」という段でいきなり終わる潔さ。まるで全13話アニメの第1話みたいな体裁だ。
これはディズニー側が提示した「お題:短篇」という言葉が通じていないわけではない。逆にもう「このProduction I.G様にスター・ウォーズ任せるからには、1シリーズ丸ごとやらせて貰おうか」と言う、王ならではの尊大かつ自信に満ちた挑戦状だ。
そしてこの傲慢な挑戦状がディズニー側にほんとに届き、現在『9人目のジェダイ』のシリーズ化が本格進行中だというのだから、もう一周回って痛快だ。この後の広がりを見守るためにも是非押さえておきたい一作。
正史(カノン)から解放され、創造性は爆発する
『ビジョンズ』という企画の成功は、この3編を見ても明らかだ。ファンが勝手に背負わされてきた「正史の呪縛」を一切無視し、いかにクールなアニメ表現を15分でぶちかますかという一点に集中した結果、これほどの創造性が爆発した。
日本アニメの切れ味鋭さを再認識できる意味でも必見の3篇だ。

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