『パニッシャー』情け無用の残虐描写 悪・即・殺のヒーローが暴く社会と暴力の実像

今回は旧Netflixマーベルの一作『パニッシャー』を紹介します。

最近はデアデビルやスパイダーマンと仲良くて大忙し。

評価 :4/5。

あらすじ

出典:TMDB

家族を殺され、復讐を果たしたのちに死を装って姿を消したフランク・キャッスル。
半年後、解体作業員としてひっそり暮らす彼の前に凄腕ハッカーのデヴィッドが現れる。
彼との奇妙な利害の一致と、共通の相手によって狂わされた人生…。
“パニッシャー”ことフランクは、再び血の匂い漂う復讐の道へと足を踏み入れるのだった。

 

 

ニューヨークを飛び越えたリアルな社会観

アメコミドラマなのに「アフガニスタン」

アベンジャーズが地球外生命体の侵攻を何度も撃退し、ある日突然人口が半分になったりするマーベルユニバース。あの世界はもはや、現実の社会とは別の地平に立脚している。

だが本作は、マーベルヒーローを主人公に据えながらユニバース路線をあえて一切排している。
代わりに「911テロ」や「アフガニスタン」といった、現実世界と地続きのファクターが物語の根幹を占める。
そしてこのリアル路線が、アメコミものでありながら強烈な社会派ドラマとして機能しているのだ。

 

暴力とは何か

パニッシャーの「悪・即・殺」のスタンスは是か非か。社会や法律という“きれいごと”を交えて、その暴力を真っ向から描くテーマは見ごたえ十分。
いや冷静に考えればフランクの行動は100パーセント”非”に決まっている。だが物語は「本当に暴力無しで問題は解決するのか?」と挑発的に問いかける。

銃愛好家でいかにもトランプ支持者っぽい白人男性をどうしようもないバカとして描く一方で、銃規制派の国会議員も口先だけの小心者として笑い飛ばす。
社会に居場所を見出せない中東からの帰還兵を同情的に描きつつ、戦争のトラウマから破滅的狂信者へと転落していく人間も容赦なく映し出す。

銃という暴力を手にすることで建国されたアメリカという国が、そのアイデンティティーに200年間も縋った結果、大衆・軍隊・政府がそれぞれ構造的な問題を抱えるに至った。そしてそれが巡り巡って、パニッシャーという名の「究極の暴力装置」を生み出した…。

そんな背景が克明に表現される。この重さ、まさに社会派。

 

 

濃すぎる登場人物たち

ジョン・バーンサルの一人勝ち!

出典:TMDB

キャスト陣も魅力的だが、本作はもうジョン・バーンサルの一人勝ち!と言い切ってしまって構わないだろう。
『フューリー』でも『ベイビー・ドライバー』でも、粗野な乱暴者ばっかり演じているバーンサル。処刑人をエンタメとして成功させるのは、この役者なくしてはあり得なかった。

特筆すべきはバトル中に発する「うおおお―――ッ!!!」という独特の雄たけびだ。
パニッシャーはスマートな暗殺者ではない。人間とケダモノの間で軋む暴力の権化であるという本質を体現している。
トレードマークのスカルジャケットがなかなか登場しないのも、焦らしが効いていて良き。

追い詰められた悪役が自害しようとするのはアクション映画のお約束だが、それを止めるどころか「そうだやれ!死ね!」と煽る主人公は、アメコミ界隈では彼だけだろう。
倒したザコの頭部を切断して爆弾として再利用する残虐ファイトは、他のヒーローが見たらドン引きレベルである。

  

ルッソとマイクロ、そして「マダニ」

ナルニア国物語の王子みたいなビリー・ルッソ。
彼が過去の映画版にも登場した宿敵「ジグソウ」の本名なのは周知の事実であり、敵に回るのは最初から既定路線だった。

だが本作のルッソはフランクとは戦場で生死を共にした戦友であり、優しく、金持ちで、イケメン。完璧超人じゃん!どこに悪役要素があるんだよ!
…とハラハラ見守ったが、何のことはない、最初から冷酷な悪党でしたとさ。
好人物が良心の呵責でヴィラン化する『ダークナイト』のハーヴィー・デント的なひねりを期待していた身としては「そ、そのまんまやんけ!」と言いたくなる直球ぶりに少々しょんぼりだ。

ただ、幼少期のトラウマを強烈な上昇志向で埋めようとするサイコパスぶりは説得力がある。軍も、政府も、親友さえも自分がのし上がるための道具。一本筋の通ったそのシャープさは、暴風のようなパニッシャーとは好対照だ。
あと手首から刃物が飛び出すアサシンブレードは問答無用でかっこよかった。

 

実戦担当のフランクに対し、情報戦担当として暗躍するデヴィッド・リーバーマン(マイクロ)。始めは超仲が悪い二人が困難を通じて友情を深めるという、バディものの王道をど真ん中でやってくれる。
愛妻家同士ちょっとずつお互いを理解していく過程は微笑ましく、既に守るべきものを失ったフランクがデヴィッドの家族を「今度こそ守る!」と信念を燃やす姿にはグッとくる。

 

『デアデビル』で修羅場を潜りまくったカレン・ペイジは、熱血敏腕ジャーナリストに成長。オロオロしていた頃とは完全に別人だ。
彼女がほぼ主役だった第10話『野蛮な美徳』は、殺人事件の顛末が目撃者の証言で全く食い違うというバイオレンス羅生門。神回。

 

「マダニ」という日本語的に損な名前を背負ったデイナ・マダニ捜査官は、国土安全保障省のエリート。
移民の出自でありながらアメリカの秩序を守ることに人生を懸けるという熱い信念を持つ。相棒を惨殺され復讐に焦がれながらも社会的制裁にこだわる姿は、パニッシャーとは対照的だ。
だがマダニ、あなたのウソ作戦のせいで死んだサム以外の捜査官のことも、たまには思い出してあげてください。

 

 

シーズン1で「スパッと」終わらせる美学

本作の美点として強調したいのは、このシーズン1の終わり方だ。

海外ドラマがシーズンの末で「つづく!」という焦らしの引きをかますのは、もはや悪しき伝統芸能のようなもの。しかし本作はそれをしない。

ルッソは晴れて顔面がジグソーパズルみたいになり(これでようやくジグソウ)、デヴィッドは家族のもとに帰っていく。
フランクが「本当は自分が何者か認めるのが怖いんだ」と朴訥に語るラストは、彼の中の戦闘本能が眠りについたことを示唆し深い余韻を残す。

パニッシャーに対する政府の処置が寛大過ぎて「それでいいのか!」とツッコミたくなるが、まあそこも含めて一つの区切りとして綺麗さっぱり終わっていると言えるだろう。

このあと『パニッシャー』はシーズン2に続いたし、今後はデアデビルやスパイダーマンと絡む予定でカレンダーが埋まっているはずだ(2025年現在)。

しかし、この第1シーズンだけで物語がいったん完結し、フランク・キャッスルが「パニッシャー」としてのアイデンティティを得た場所として終止符を打てたことは、このシリーズがハードボイルド復讐譚としての純度を保てた最大の勝因だと思う。

  

 

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