『ヘレディタリー/継承』 家族と言う呪い ホラー映画の定義を変えてしまった究極の恐怖体験

二度と見たくないけど、凄まじい傑作よ。

評価 :5/5。

ゴムゴムの表情筋!…の恐怖!

制作:2018
監督:アリ・アスター
主演:トニ・コレット、ガブリエル・バーン、アレックス・ウルフ

出典:TMDB

ミニチュア作家の母親と、温厚な父親。
好青年の長男。そしてどこか不思議な力を宿す妹。
物語は四人家族の日常を静かに追う。

祖母の死をきっかけに家族の間に不協和音が広がり始めるが、その先に待ち受けていたのは地獄すら生易しい惨劇だった

 

 


流血の急展開

ホラー映画の常識を木っ端微塵に打ち砕くのが、本作『ヘレディタリー/継承』の真骨頂である。
通常のホラーはジワジワと怪異や不穏な空気を堆積させていくものだが、このアリ・アスター監督の長編デビュー作は日常パートから唐突に「え、これそういう話!?」的な規格外の出来事を叩きつけてくる。
この展開の暴力性こそが、本作を「迂闊に内容を紹介できない」という特殊な領域に押し上げている。

しかしそんなドッキリ以上に観客の心と精神をズタボロにするのが、母親アニーを演じるトニ・コレット狂気の熱演である。
彼女の演技はもはや「鬼気迫る」という表現では到底追いつかない。

特に家族四人が食卓を囲むシーンは最恐が過ぎる
ショッキングな流血描写などは皆無にも関わらず、観客は凍り付くような恐怖の密室劇を体験する。
なにが怖いのか?
それはアニーの顔面に宿る圧倒的な狂気だ。
怒り、悲嘆、被害妄想、そして抑圧されたヒステリー。彼女の表情筋という表情筋が、まるでゴムゴムの実の能力者のように自在に変形しながら周囲の人間、そしてスクリーン越しの観客へと精神的な暴力を浴びせかけてくる。
その顔芸はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』におけるジャック・ニコルソンの領域に肉薄する、トラウマ必至の凄まじさだ。

 

 


新時代の「地獄」を切り開いた才能

トニ・コレットの顔面が発する恐怖を起点に、家族が抱える精神的な病理とオカルト要素がさらに絡み合う。
トニコレの顔芸に目が行きがちだが、彼女を取り巻くガブリエル・バーンやアレックス・ウルフらの「困惑と絶望」に満ちた演技もまた、この地獄絵図のリアリティを支えている。

そしてこの新時代の恐怖を長編デビュー作でブチ撒け尽くした監督が、アリ・アスターという謎の天才だ。
続く『ミッドサマー』で世界的な評価を不動にした彼は、さらに『ボーはおそれている』『エディントン』など尖った&物議を醸す作品を景気よく連打しまくっている。マジでどこまで行く気なんだアリ・アスター。

『ヘレディタリー』は単なるビビらせ系ホラーの範疇を遥かに超え、家族という抗いようのない呪い(ヘレディタリー)を真正面から描く。
近代ホラー史のターニングポイントとして記念碑的な傑作と呼ぶのにふさわしい。

 

 

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