『ボーダーライン/ソルジャーズデイ』メキシコ麻薬戦争の非情な泥沼 人間性を捨てた男たちの友情

「主人公が他の登場人物に延々シカトされ続ける」という斬新な脚本で絶賛を集めたドゥニ・ドゥルヌーヴ監督作『ボーダーライン』(2015年)。

メキシコ麻薬戦争の泥沼っぷりと解決の難しさ…。
そして「戦争」ゆえに一番しわ寄せを食らうのは一番弱い者であるという非情な現実が描かれた、骨太の一作でした。

今回はその『ボーダーライン』の続編『ボーダーライン:ソルジャーズデイ』を紹介します。

アクション映画として紹介するにはあまりに重いけど、男の友情映画としては最高傑作レベルね。

評価 :4/5。

この世界観、殺伐の極み

2019年 アメリカ
監督:ステファノ・ソッリマ
出演:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン

出典:TMDB

今回の主役はべニチオ・デル・トロが演じるアレハンドロ。
前作で(一応の)主役を演じていたエミリー・ブラントは不在。まあ前作のラストであんな事されたので当然と言えば当然ですね。

なお監督も交代していますが、脚本はテイラー・シェリダンが続投。今作もシェリダン節と呼ぶべき超カッチョイイ台詞が目白押しです。

 

今回は中東系イスラム過激派による自爆テロから物語が始まります。
「麻薬戦争の話じゃねーの?」
と疑問に思っちゃう所ですがそこがミソ。
麻薬カルテルにとって、政情不安定を演出するためテロを輸出するのはビジネスの一環であるという胸糞悪すぎる世界の闇が描かれます。つまり諸悪の根源はやっぱり麻薬カルテル。

 

アメリカ政府はメキシコ麻薬組織に秘密裡の報復を決意。
そこで呼ばれるのが国防総省の非公式エージェントであるマット(ジョシュ・ブローリン)なのでした。

マットは凄腕傭兵アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)とともに麻薬カルテル同士をつぶし合わせる作戦を立案。
抗争の火種をでっちあげるべく、地元ギャングに扮装して敵対組織のボスの娘イザベルを誘拐します。
なおイザベルはクソ生意気な女子高生。

 

ところが地元警察の裏切りに遭い作戦は失敗。
メキシコじゃ警察とギャングの癒着なんて日常茶飯事なのだ!

関与の露見を恐れた国防総省から見捨てられ、マットとアレハンドロは窮地に陥っていくのでした…。

 

最初から最後まで誰かが死ぬシーンが続く超殺伐とした一作。
前作は意外と暴力シーンが控えめだったのに比べ、本作は直接的な流血描写が大幅増。よりアクション映画としてのケレン味を追及した作風になっています。
大好物です

 

 

以下の記事、ネタバレ注意です!!

 

 

映画の常識を覆す超ショックシーン

作戦が失敗したことで、一部始終を知るイザベルの「始末」を上から命令されるマット。
イザベルの処遇を巡って対立するマットとアレハンドロ…。
使命と信念のはざまで揺れる男たちの姿が、もう死ぬほどグッと来ます。

予測不能過ぎる展開に突入する後半はさらに面白さが加速。
特にギャング一味にアレハンドロが拘束されるシーンは発狂寸前の緊張感。本作屈指の名シーンでした。

ぐるぐる巻きにされ無様に地面にころがるアレハンドロ。
そんな彼を「処刑」するべく、銃を持ち近付くギャング…。
い、一体どうなるんだー!?

…なんてね。
まあアクション映画なんだし、当然「間一髪のところでラッキーが起きて主人公が助かる」んでしょ。分かってるって。

と思いきや、あっけなく射殺されてしまうアレハンドロ

え、ええーーーーっ!!?

と素っ頓狂シャウトが緊急発進してしまう超ショックシーンです。
こんな展開を思いつくなんて一体どんな脳の構造してるの!?

その一部始終を上空のドローンを通して見ていたマットの、怒りと憎しみの炎が静かに灯る演技も最高。
衝撃的で暴力的で、しかも漢の絆が熱く描かれる…やっぱり大好物ですよこんな映画!

 

 

アレハンドロ、ブレてない?

ただ…。
アレハンドロがイザベルを殺すよう命令されても「罪もない女の子を殺すなんて、そんなことは出来ない」と突っぱねるくだりがどうにも納得できない…。

だってアレハンドロったら前作のラストで、麻薬王の家族を皆殺しにしてたじゃん。
女も子供も一切容赦なく惨殺してたじゃん。

アレハンドロにそこまでさせる怒りと憎しみの深さがメキシコ麻薬戦争の闇の深さとリンクし、映画史上稀に見る超・殺伐とした主人公像を結んでいたのに…。
今作のアレハンドロときたら小娘ひとり殺せないでやんの。
あの頃の尖ったお前はどこへ行ったんだよ

 

いや、分かりますよ。
前作とは敢えて違うアプローチでキャラを掘り下げようとしてるコンセプトは分かりますよ。

「小娘誘拐という茶番作戦で「アホか俺、何やってるんだ…?」気分になった」

「イザベルを助けるために手話を使った(死んだ実娘は聾だったので、アレハンドロは手話が使える)」

などのエピソードを経て心境に変化が起こり、いつしかアレハンドロはカタキの娘であるイザベルと死んだ娘を重ね合わせていた…。
という物語の皮肉要素も理解できますよ。

 

でもやっぱり納得できない。
女子供も容赦なくブッ殺せる冷酷な殺戮マシンと、心に深い悲しみを抱える孤独な人間性が同居しているのがアレハンドロの真髄だったはず。
「罪もない女の子を殺すなんてイヤだ」だなんて、そんなフツーの意見は君の口から聞きたくないよ!
あなたトム・クルーズじゃないのよ!?

 

とまあ言いたいことは無くはないですが、とにかく楽しめたことは間違いありませんでした。
男同士の言葉少なな友情にグッと来る人には最高のご褒美。
もう一作くらい続編作れそうなラストにも期待を抱かせられます。

 

 

 

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