『スパイダーマン:スパイダーバース』を観てきました。
アメリカで先立って公開され圧倒的な高評価を集めていたにも関わらず、日本での公開は全くの音沙汰無し。
いつ観られるんだ?
そもそも日本で公開されるのか?
この半年さんざんヤキモキさせられましたが、今月ついに日本公開! やったぜ!
で、早速観てきた訳ですが『スパイダーマン:スパイダーバース』。
もう想像以上に最高でした。
何と言ってもグラフィックが圧巻。
コミックを動画化するのではなく、コミックをコミックのまま動かすことにこだわり抜いた表現は全編通して圧倒的な存在感でした。
ヒップホップをフィーチャーしたサウンドも素敵だったし、6人のスパイダーマン達のアクと個性がほとばしるアクションシーンも痛快です。
何より「(ヒーローになるのに)必要なのは勇気だけ」と言う純真なメッセージを真っ向から描いている点がほんとに素晴らしかったです。
『スパイダーバース』はヒーロー映画が今よりもずっとシンプルだった時代への原点回帰なのだと思えました。
アメコミ界がまだ『ダークナイト』による正義の不在化も『アベンジャーズ』に始まる膨張主義も経験していないあの時代。より具体的に言えばサム・ライミ版『スパイダーマン』の時代への回帰です。
『スパイダーバース』がサム・ライミ版のスパイダーマンシリーズに並々ならぬリスペクトを抱いていることは、ヴェノムの影響で街をダサいダンスで練り歩くピーターという珍シーンをわざわざ引用している点からも明らかです。MJとの逆さまキスや暴走列車を止めるシーンも同上。
なぜ『スパイダーバース』がこれほどまでに感動的なのかと言えば、それは「誰でもヒーローになれる」というスパイダーマンという作品の原点に迫ったスパイダールネッサンスだからに他なりません。
これは消防士や警察官ら現実の世界で市民の平和を守るプロたちへの賛歌でもあるし、家族を養うために毎日満員電車で出勤するお父さんお母さんらへの敬意とも捉え得ます。
とにかく、アメコミ映画界に新たなレジェンドが誕生したと言えるでしょう。大傑作です。
これはアカデミー賞長編アニメーション賞受賞もむべなるかな。
↑もう15年前の作品になりますが、今観ても圧倒的に面白いアメコミ映画の金字塔
以下の記事 ネタバレ注意!!
目次
ヒーロー誕生でなくヒーロー継承
過去数作のスパイダーマン映画は細かいテーマの違いはあれど、いずれもピーター・パーカーの物語である点で共通していました。
しかし今回のピーターは脇役。...と言うか実際脇役ですらなく、開始早々いきなり死んでしまいます。
今回の主役はそんなピーターの死に立ち会い、そして同じ能力を身につけたマイルス・モラレス少年です。
このマイルス少年は友達が多くて社交的。勉強できるだけじゃなくて芸術面でも造詣が深い。両親も健在でしかもマトモなお人柄…と、かなりピーター・パーカーとは質を異にしたキャラクターです。
ただそんなマイルスにも悩みがあって、それは「こうなりたい自分」を父親に認めてもらえないこと。父親のことを深く敬愛しているからこそ本当の自分を抑えて過ごさなきゃいけない現状に葛藤を抱えている訳です。言ってしまえばよくあるフツーの悩み。モラレスの等身大さに親近感が湧きます。
しかしマイルスは自分の意志とは関係なく偶然(?)スパイダーマンの能力を授かり、事件に巻き込まれていきます。
ピーター・パーカーを殺した大悪党・キングピンが開いた次元の穴を通じ、マイルスの前に現れる平行世界のスパイダーマン達。
そんな彼らとの共闘の中で、時に傷つき、時に自身の無力さに打ちひしがれつつもマイルスは成長していきます。
「唯一無二の能力を身に着けた少年がヒーローになるまで」を描いたオリジンものでありながら、既にヒーロー歴の長い先輩スパイダーマンが5人も出てくるというのが異色ですね。
完璧すぎる吹き替え
で、平行世界のスパイダーマン達の中でも特にマイルスを導くことになるのがピーター・B・パーカーなるやさぐれ中年男。マイルスの眼前で非業の死を遂げた同世界線のピーターとは似て非なる負け組男です。腹も出てる。
この中年ピーターの吹き替えを担当しているのが安心と信頼の宮野真守。
モラレス(CV小野賢章)との掛け合いがめちゃくちゃ面白く、割とシリアスなことばっかり起きる『スパイダーバース』のストーリーラインに笑いのエッセンスで潤いを与えてくれます。
スパイダーノワールを見て「なんで地下なのにコートがはためいてるんだ…」とぼやいてみたりと、宮野節でのツッコミが全編冴えわたってて超笑えました。
他の声優陣も
グウェン →売れっ子・悠木碧
ノワール →待たせたな大塚明夫
ペニー →からかい上手の高橋李依
キングピン→満を持しての玄田哲章
と鉄壁の布陣。はっきり言って完璧です。
良かった…。
「〇〇(アイドルの誰か)、声優初挑戦!」にならなくて本当に良かった…。
燃えるヒップホップ
『スパイダーバース』は音楽も印象的な作品でした。
ヒップホップを中心にしたスタイルはマイルスが黒人だからなのか、それとも単に現在の音楽シーンを反映してのことなのか。とにかく実に今風のサウンドでしたね。
特にマイルスがスパイダーマンとしての覚悟に目覚めるシーンで流れる『ホワッツ・アップ・デンジャー』は屈指の名曲。
父の言葉で奮起したマイルスの目に電撃が宿る
→故・ピータ―のスパイダースーツを自分デザインに作り変える
→メイおばさんから譲り受けたシューターで満を持してウェブスイング
ここでサビの「can't stop me now!!」が重なる! 超カタルシス!
曲と映像を完璧にマッチさせたミュージックビデオ風の演出が少年の成長という爆発的なエネルギーを見事に表現しており、本作随一の名シーンに仕上がってます。
超カッコいい。
超泣ける。
あとモラレスの部屋にチャンス・ザ・ラッパーのポスターが貼ってあったけど、帽子の「3」が「4」になってるというヒップホップ小ネタも面白かったですね。
↑ 2019年4月号の映画秘宝に全曲解説が載ってるので一読おススメ。
↑ 『サンフラワー』もいい感じなサントラ。
買っても絶対後悔しないと思う。けどAmazon music unlimitedでも早速配信されているので、こっちの方が安くて良いと思います。自分はそうしてます。
個性爆発! 平行世界のスパイダーマン達
『スパイダーバース』の醍醐味と言えば、スパイダーマンが6人も出てくることでしょう。
いささか多すぎてクライマックスではスコーピオンとドックオクの2人に6人がかりで襲い掛かるという数の暴力状態に。
せっかく悪役も6人(シニスターシックス!?)出てくるんだから、6vs6の大乱戦が見たかったと思わないでもなかったり。まあ野暮ですね。
ピーター・B・パーカー
前述通り、宮野真守の吹き替えが素晴らしすぎな中年ピーター。
20年以上スパイダーマンやってた経験値は伊達じゃなく、百戦錬磨ぶりが冴え渡るドックオクとの初戦は燃えました。
腹は出ててもやるときはやる。いわゆるギャップ萌え。
マイルスを導く過程で、ピーター自身もかつての熱い魂を取り戻していくという過程が本当に泣けます。これぞ師弟愛。
グウェン・ステイシー
肩幅が立派な美少女スパイダーウーマン。
バレエを思わせるしなやかな身のこなしが印象的でした。お約束の高層ビルからのダイブも水泳飛び込みのような華麗さでカッコいい!
あとかわいい。
平行世界のMJを前にキョドるピーターを見てた時のスパイダージト目が最高にキュンと来ました。
おやじ、グウェンが主人公のスピンオフをひとつ。
元の世界のピーターとの関係が親友ってことになってたのは、最近流行りの「恋愛しないヒロイン」たろうとしてるものと見た!
スパイダー・ノワール
大塚明夫みたいな声で演出過剰なカッコつけセリフを吐きまくるので、画面にいるだけで笑いがこみ上げる。「俺のときは…ベンジャミンおじさんだった」には、シリアスなシーンなのに爆笑してしまいました。
色のない世界から来たから一人だけ白黒ってのもアニメならではの表現で面白かったです。
エンドロールで完成したルービックキューブを誇らしげに展示してるのがかわいい。
ペニー・パーカー
ノワール以上にビジュアルが異彩を放つペニーちゃん。
日本の萌えアニメの露骨なパロディ!
ロボット搭乗シーンがド派手だった割には今一つ戦闘力を発揮できないまま終わってしまったのが残念でした。
聞けばロボット自体が父親の忘れ形見だという正太郎君的な設定のオーナーだとか。いち脇役に据えておくのはもったいない深いキャラですね。
おやじ、ペニーが主人公のスピンオフをひとつ。
あと彼女もエンドロールに出してあげようよ!
ピーター・ポーカー
ネタ以外何者でもないビジュアルながら「全員は救えない。すべてが上手く行くわけじゃないんだ。」という、人生の苦みを凝縮したセリフを吐くギャップが印象的なスパイダー・ハム。
ポケットから巨大な木槌を取り出して意外な戦闘力の高さを発揮するクライマックスには燃えました。
ミゲル
エンドロール後に突然現れるスパイダーマン2099。
「ええー続編への布石!? もー、そういうの止めてよ気持ちよく見終わらせてよ!!」と一瞬辟易しましたが、実際にはめちゃくちゃしょうもないギャグ(誉め言葉)を一発かましだだけに終わりました。良かったー!
映画秘宝によれば『スパイダーバース』には続編とスピンオフが平行して企画進行中だとか。
スピンオフはともかく続編はどうかなー。せっかく綺麗に終わったんだから美しく完結してもらいたい気持ち半分、ぜひ見たい気持ち半分。
どうしても続編やるなら東映ダーマとレオパルドン参戦を所望!!