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Netflix『バスターのバラード』感想 コーエン兄弟のブラックユーモア西部劇!

2018年11月16日

出展:IMDb

今回はNetflixオリジナル映画『バスターのバラード』の感想をお送りするよ!

 

ハリウッドを代表する映画人であるジョエル・コーエン&イーサン・コーエン。
アカデミー賞でもカンヌ映画祭でも数々の受賞歴に輝く、言わずと知れた天才兄弟だ。

 

そんな彼らが手掛ける最新作がNetflix限定配信だなんてスゲー時代になったもんだぜ。
しかも小規模な実験作とかじゃなくてジェームズ・フランコら大物俳優をバンバン起用した大作ときたもんだ。
Netflixの「映画館(あいつ)ら……駆逐してやる!この世から……一館残らず!!」という強烈な憎しみは一体どこから湧いて出るのか。仲良くしなさいよ君達。

 

 

 

コーエン兄弟ってどう思う?

ところでそのコーエン兄弟な。
正直申し上げると自分、どうもコーエン兄弟のことよく分かんないんだよね…。つかみどころが無いと言うか。

 

たとえば『ファーゴ』や『ノーカントリー』はちょ~大好きな作品だけど、『ビッグリボウスキ』とかは世間の傑作扱いに反して正直なにが面白いのかさっぱりなんじゃよ。
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』に至ってはカンヌのグランプリに輝いた成功作なのに全っ然つまんなくて。「キャリー・マリガンかわいいなあ」以上の感想がこれっぽっちも湧いてこなかったんだよね。

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(字幕版)

 

「ジョージ・A・ロメロ監督最新作!」と言われれば、どう転んでもゾンビが出てくる。
「マイケル・ベイ監督最新作!」と言われれば、どうあがいても車が爆発する。

 

でも「コーエン兄弟最新作!」と言われても何が飛び出すのかさっぱり分からない。
おかっぱ頭の殺人鬼か、脱獄3バカか、UFOと遭遇する床屋なのか全然読めないのだ。
どう言う心構えで観るのが正しいのか、観てからじゃないと分からない(或いは観終わっても分からない)。そこが楽しいんだけど、同時にそこが敷居高い気がするんだよな…コーエン兄弟。

 

ちなみに過去のコーエン兄弟作品で個人的に一番好きなのは、正統派西部劇の『トゥルーグリット』。
彼らのフィルモグラフィの中では大して評価が高くない一品だけど、好きなもんは好きだからしょうがない。
だってヘタレなマット・デイモンとか最高じゃん!
隻眼の凄腕老ガンマンとか厨二魂が震えるじゃん!

トゥルー・グリット (字幕版)

 

そして本作『バスターのバラード』は『トゥルーグリット』と同じく西部劇。
コーエン兄弟×西部劇!
これは…行ける気がする!!

 

と期待しさっそく観てみたよ『バスターのバラード』。
結論から申し上げればかなり面白かった! それは間違いない!
が、コーエン兄弟作品らしいリアクションの取り辛さも健在。
これ書いている時点で観終わったばっかりだけど、腑に落ちるまで数日かかりそうな印象だぜ!!

 

なお『バスターのバラード』は6編からなる短編集。
せっかくだからそれぞれの物語を紹介するぜ!

 

 

 

以下の記事 ネタバレ注意!!

 

 

 

第1篇 バスターのバラード

バスター・ストラグルは陽気なお尋ね者。
凄腕のガンマンであり、歌の名手であり、あげくデッドプールみたいに観客に話し掛けてくるという型破りな男だ。

毎日歌ったり殺したりして面白おかしく過ごしていたバスターだったが、自分より強いガンマンが現れるとあっさり敗北。
陽気に歌いながら天に召されていくのでした…。ちゃんちゃん。

 

スピード感溢れる演出がキマってる一篇だ!
とにかくバスターの不敵な存在感が凄い。いきなり登場して笑って殺して踊っていきなり退場してしまう。最高だ!
終始観客に語り掛けながら超人的かつバカっぽい射撃技をも披露してくれるぞ!
あげく歌も上手い!かなり上手い!!

出展:IMDb

爽快で痛快で、主人公が死ぬ話なのにまったく嫌な気分にならずに見終えることができる、ツカミとしては珠玉の一本だった…と、思う!!
このノリで丸1本映画撮って欲しいくらいだぜ!!

 

 

第2篇 アルゴドネス付近

ジェームズ・フランコはならず者。
荒野に一軒だけポツネンと建つ銀行に「ここだったら俺一人でもいけそう」とナメくさって強盗に入るが、見掛けに反してめちゃくちゃ強い銀行員の反撃に遭い敢えなく逮捕。自警団らに絞首刑に処されそうになる。

が、刑が執行される直前にイロコイ族の襲撃に遭い自警団らが全滅。からくも生き残るフランコだった。
しかし今度は牛泥棒と間違えられてまた逮捕。再び絞首台に立つ羽目に。

1日に何度も処刑されそうになったフランコはすっかり諦めがつき、絞首刑見物に来た女性の一人を見て「お、べっぴんさんが居るわ~」と冷静につぶやきながら今度こそ死刑に処せられるのだった。

 

ジェームズ・フランコが主役を務めるブラックユーモア全開の一篇だ!
全身にフライパンをくくりつけ、撃たれても「へたくそぉ~!!」と絶叫しながら突撃してくる銀行員が絶大なインパクトだった。なんなんだこいつ強すぎだろ。二代目グリーンゴブリンとかになら余裕で勝てるんじゃないかこの爺さん。

 

あと
「牛泥棒を捕まえました!」
「証拠は?」
「盗まれた牛と一緒にいました!」
「よし吊るせ」
で終わる超コンパクトな裁判にも笑えない笑いがこみ上げる。西部はまさに無法地帯だ!!

 

 

第3篇 食事券

両手両足の無い若者に芸をさせ、その見物料で日々を食いつなぐ旅芸人(リーアム・ニーソン)。
旅芸人は若者の芸が飽きられて稼ぎが減ってきたこと、そして両手両足の無い彼の世話をし続けることに辟易し、代わりに芸をする家畜を買って若者を川に放り捨てるのだった。

 

超ゲンナリする胸糞悪い話。
無力な存在をゴミのように捨てる人物を、みんなのクワイガン・ジンことリーアム・ニーソンに演じさせる底意地の悪さが厭だね~…。

 

西部開拓時代の人間性の欠如とただその日を生きることの過酷さを描いた一篇とも捉えられるし、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』にも通じる才能と生活の狭間ですり減る人生というテーマとも捉え得る。タイトルの意味も考えさせられる。
ただ、いずれにしても後味悪すぎるので嫌いだね。ブーブー

 

 

第4篇 金の谷

人里離れた山の奥。
そこは小川に魚が泳ぎ、花に蝶が舞い、鹿が野を駆ける一つの楽園だった。

そこへ汚い爺さんが歌いながら現れ、魚も蝶も鹿も逃げ去る。
爺さんは金(キン)を掘りに来たのだった。

小川のほとりを掘りまくり、何日もかけた気の遠くなるようなトライ&エラーを経て遂に爺さんは金脈を探し当てる。

大量の金を馬に積み、来た時と同じように歌いながら去る爺さん。
すると魚も蝶も鹿もまた戻ってくるのだった。

 

雄大な自然が美しい一篇。
ここまで舞台が砂漠や雪原ばっかりだったので、目の保養になったね。
まあ出てくる動物がCG丸出しだけど、その辺はご愛敬ってことで!!

 

↓ただの小汚いジジイかと見せかけて開拓者魂を全力で体現する不屈の漢

出展:IMDb

 

人が死ぬ話が続いたので、きっとこの話もひどいオチに違いない…と思いきや中々痛快な一篇だったね。
金を横取りしようと途中でガンマンが襲ってくるのだが、その危機を爺さんがどうやって切り抜けるかが話のクライマックス。これぞ不屈のフロンティア魂!!

 

ここまで「西部開拓時代の過酷さ」をフィーチャーしてきた話ばっかりだったけど、この話は「そんな過酷さをも乗り越える人間のしたたかさ」がテーマのようだ。
とにかく面白かったぜ!!

 

 

第5篇 早とちりの娘

バカのくせに強権的な兄と共に開拓前線を旅をする若い女性アリス。
ある日旅の途中で兄が病死。身寄りの無いアリスは途方に暮れる。

キャラバンの護衛を務める二人組のガンマン、ナップとアーサーはそんなアリスの相談に乗るが、やがてナップはアリスの聡明な人柄に惹かれていく…。

 

ド直球の正統派西部劇。つまり自分の大好物。
これ凄く良かったよ。
めちゃくちゃ面白かった。

 

凄腕老ガンマンと世間知らずの女の子が出てくる点で『トゥルーグリット』を彷彿とさせるのもベネ(よし)。
全編通して演出のキレが良く、特に冒頭の食事シーンの「コーエン兄弟らしさ」は抜群だ! これだよこれ、この妙な空気感!!

 

ヒロインのアリスの純朴な魅力が大変すばらしく、ナップにプロポーズされたときの「まあ…それは驚きましたわ」に萌えた。
そして大ピンチに遭遇してもあくまで冷静に戦闘態勢を整える老ガンマンのアーサーに更に燃えた。足腰は弱ろうとも、戦いの記憶を武器に万に一つのチャンスをつかむ…! ほんとに『トゥルーグリット』のコグバーンを思い出させる実にカッコイイジジイだ。

 

タイトルからは想像もつかない壮絶なオチが待つ一篇だが、ラストシーンは音楽も含めて美しいの一言
西部開拓民の過酷な人生と、それでも生きて行かなきゃいけないという無常感が力強く伝わってくる大傑作だ!

 

 

第6篇 遺骸

とある街を目指して突き進む馬車。
乗っているのは嫌味なフランス人、高慢なマダム、野蛮人風の猟師、そして風変りな恰好の紳士二人組だ。

彼らは道中様々な会話を交わすが、やがてこの馬車がどこに向かっているのか段々明らかになっていく。
目的地に付いたとき、乗客らは戸惑いながらも馬車を降りるのだった。

怪談テイストの会話劇。
明言はされないが、実は馬車は乗客を死後の世界へ連れていくその途中だった…というオチだ。
こんな風変りな小品でおひらきにする所がおしゃれだね『バスターのバラード』。

 

限定空間での会話がひたすら続き、とつぜん急転直下のオチになだれこむ…という構成はコーエン兄弟と言うよりタランティーノっぽかった。と思ったよ!!
味わい深くはあるけど、まあデザートみたいな位置づけだね。たぶん。

 

と言う訳で、改めて書き出してみると6篇中5篇で主人公が死んでることが分かった。こんな悲惨な短編集見たことないぜ(;^ω^)
西部開拓時代の過酷さを題材に、現代人にも通じる人生の無常さを描くというシニカルなコンセプトが実にコーエン兄弟らしいね!
とにかく面白かったぜ!!

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