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『ザ・ファイブ・ブラッズ』感想 血塗られた歴史と仲間の絆…黒人から見たベトナム戦争史

Black Lives Matterで世界中が激震する今日に、黒人映画の神様ことスパイク・リーの新作が配信開始されました。
これは奇遇でもマーケティングでもなく、もちろん運命でしょう。なんちゃって。

そんなワケで今回はNetflixオリジナル新作映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』を紹介します。

 

ベトナム戦争中に現地に隠した金塊を、40年の時を経て当時の黒人兵士たちが探しに行くドラマ。
黒人として、ベトナム人として…。あらゆる意味で戦争から逃げられない人間たちの過酷な運命が描かれます。

戦時中と現代の二つの時間軸が並行する、凝った演出も印象的。
ベトナム戦争当時のエピソードになると画面が4:3比率になるのも(ちょっとあざといけど)判りやすく、あちこちに『地獄の黙示録』要素が散りばめられているのもグッドでした。

 

アメリカの歴史に疎い私にはハードルの高い題材の映画でしたが、黒人魂はしっかり伝わってきたよ。

なお当記事は「お前そんなことも知らねーの!?」とバカにされるの覚悟で書いてるけど、アメリカのこと何も知らない人はこんな感想なんだ( ´_ゝ`)フーンぐらいの心持ちで受け流して頂ければ幸いです!

 

 

ザ・ファイブ・ブラッズ

2020年 アメリカ
監督:スパイク・リー
出演:デルロイ・リンドー、ジョナサン・メジャース、チャドウィック・ボーズマン

かつてブラッド小隊としてベトナム戦争を生き抜いてきたポール、デヴィッド、オーティス、エディの4人。

彼らは亡き戦友ノーマンの遺骨と戦時中に隠してきた大量の金塊を求め、40年ぶりにベトナムに入る。

しかし順調に見えた金塊探しの旅は、次第に予測不能の事態に陥っていく…。

 

評価 B

 

抜群の見応えがある一方で、めちゃくちゃ重かった…(;^ω^)
とにかく緊張感が凄く、豊富な登場人物もいちいちキャラ作りが凝ってて情報量が多い。追うだけで大変。
長めの尺もあって見終わる頃にはヘトヘトになりましたとさ。

 

 

黒人とベトナム戦争

冒頭で近代黒人史をスピーディーにおさらいするくだりが実にスパイク・リーらしい社会派っぷり。
現在進行形のBlack Lives Matter運動と並行してこんな映像が作られるなんて…歴史って本当に繰り返すんだね!

 

グエン・ゴク・ロアン将官がベトコン捕虜を射殺する、余りにも有名な実在の戦争写真――それを生々しい質感の動画で再現してしまうくだりには度肝を抜かれました。
焼夷弾の火災から全裸で逃げる女児の写真もしかり。
どうやって撮ったのこれ…全部CG?

こんなセンシティブな試みに真っ向取り組むスパイク・リー…。
もうその覚悟と力量にひれ伏すしかありません。

 

こちとら近代世界史など中学の教科書程度でしか知らないぽんこつなので、この冒頭のシーンを含めベトナム戦争と絡めた黒人差別の歴史は非常に勉強になりました。
たとえばキング牧師が暗殺されたのはベトナム戦争のまっ最中だったとか、もう全く知りませんでしたね…。
それは…さぞや現地の黒人兵士の士気を大いにくじいたことでしょう。
黒人の立場からベトナム戦争を見る視点が斬新です。『ランボー』とも『タクシードライバー』ともぜんぜん違う。

 

黒人の被害者っぷりだけを描くような一方通行になってないのも凄い。
アメリカ人によるベトナム人大量虐殺「ソンミ村事件」についても言及されていますし、ある意味ベトナム戦争勃発の遠因を作ったフランスを絡ませてくるのも業が深い…。
そのフランス人にしても、クソ野郎と聖女が両方出てきて一筋縄ではいかない感じ。

「アメリカが悪い!」「黒人は悪くない!」「いやそもそもフランスが悪い!」みたいな幼稚な一元論とは無縁で、複雑で根の深い歴史観が浮き彫りにされていきます。

なおクソ野郎の方のフランス人を演じるのは、フランスと言えばこのひとジャン・レノ。でも太りすぎだろ!久々に見たけど!

 

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ソンミ村の大虐殺を描いた映画と言えばこれ。
子供のときウィレム・デフォーのマネしてこのポーズよくやってたけど、実はアメリカの歴史を断罪する壮絶なシーンだったと大人になってから知ることってありますよね?

 

 

 

「アメリカをもう一度偉大な国に!」

トランプ大統領の下劣極まりないキャッチコピーが書かれたキャップ帽が、意外と重要なアイテムとして何度も登場するのも印象的。

 

日本人という「外野」から見ると、差別主義者まっしぐらのトランプ大統領がなぜ黒人や移民から票を集めるのか私ってばまったく理解できませんでした。

低収入・低学歴のいわゆるホワイトトラッシュ層がトランプ大好きなのは、まあ理解できます。納得はできないけど。
でもなんで黒人が?ヒスパニックが?自分たちを屁にも思っていないトランプ大統領を?
ぜんぜん分からん…。

 

炎と怒り――トランプ政権の内幕

 

ただ…本作のポールを見ていると理解できる気がします。
結局「惨めさ」なんですよね。
戦争、不況、競争社会…。
何かが原因で本来の人生を失ったひとたちが共通して持つ「惨めさ」。
そんな自分への哀れみから逃れるため、何か変わるかもとトランプに期待していたワケです。
そこに人種の差はない。黒人も移民も、ある意味「平等」に惨めさを吸収して肥えていった…それがトランプ大統領なのでしょう。
だからブラッズのような退役軍人らですら、自分たちを死地へ叩きこんだ存在と同類を支持してしまう。闇深い構図です。

 

そんな闇を証明するかのごとく、ポールが正気を失って唐突にカメラに向かって話しかけてくるシーンは圧巻。鬼気迫る迫力。
戦争のトラウマ、政府への不信…。
息子デヴィッドへの思いもパターナリズムに凝り固まった憎しみに姿を変える…。

アメリカの犯してきた罪が、もっとも忌むべき形の罰として現出したかのような地獄のシーンです。

 

そのポールが事あるごとに被り直すトランプ大統領のキャンペーン帽子…その前部に書かれる「アメリカをもう一度偉大な国に!」が、悪い冗談にしか思えなくなってきます。
この皮肉が効きすぎててもう怖い。アメリカ史怖い。

 

 

BLACK LIVES MATTER

かように血塗られた雰囲気の本作ですが、一縷の良心として登場するのがチャドウィック・ボーズマン陛下こと"嵐の"ノーマンなのでした。

 

ノーマンは劇中、徹底的に聖人として描かれます。
キング牧師の訃報にいきり立つ仲間へ「憎しみに溺れるな」と諭し、大量の金塊を前に「黒人たちの大義のために使うべきだ」と瞬時に決断する。
迷えるポールの心象風景に現れ、長年のトラウマをも癒す…。

ほとんど神です。
陛下って言うか神。ワカンダフォーエバーどころじゃない。

 

紆余曲折の果てにノーマンの遺骨へ辿り着く一行。
しかしその死には直視するには辛すぎる秘密が…。

 

あまりにも聖人めいて描かれるので却って現実感が希薄なノーマンですが、多分だからこそ目指すべき「理想」なんですよね。彼の存在自体が。

キング牧師が「いまのアメリカは酷いもんだけど、きっと変われる!」という旨の演説をしているシーンで映画は終わりますが、その「きっと」部分がノーマンなのだと思います。
現実感は無くとも確かに存在する…まさに「理想」じゃないですか。「希望」と言い換えてもいい。

事実、生き残ったブラッズは大量のカネをBLACK LIVES MATTER運動や地雷被害者支援団体に寄付します。
それでアメリカが少しでも変われると信じて…。

 

めちゃくちゃ情報量がヘビーなので、2度3度と繰り返す見るうちに新たな気付きや印象の変化がきっとある一作だと思います『ザ・ファイブ・ブラッズ』。
良かったです。

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