『ジョン・ウィック』『イコライザー』など世に数多存在する「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」。
不遜な態度の悪役キャラが異常に強い主人公キャラによって景気よく粉砕されるサマは、あまねく映画ファンに強いカタルシスをもたらしてきました。
今回紹介する『ドントブリーズ』は、そんなナメ殺映画の歴史に投じられた変化球。
ナメてる方を主人公に配し、ナメられる殺人マシンを異常に怖い怪人と設定した逆転の発想の異色作です。
低予算ホラーながら異例の大ヒットとなったのも頷ける、アイデアに満ちた秀作!
ドント・ブリーズ
2016年 アメリカ
監督:フェデ・アルバレス
出演:ジェーン・レヴィ、スティーブン・ラング
盲目の老人が自宅に隠し持つ多額の現金…。
「目が見えない老いぼれの一人暮らしだなんて、盗みに入って下さいと言ってるようなもんだぜ!」とナメ腐った3人の強盗がその家に押し入るが、超人的な戦闘力を持つ老人の反撃に遭い逆に窮地に…!
評価 B
朝焼けの住宅街で、血まみれの女を屈強な男が引きずっていくという衝撃的なシーンで始まる『ドントブリーズ』。
いくら人通りの少ない時間帯だからって!
住宅街でそんなことしてたら!
通報待ったなしだろ!!
…そんなツッコミを待ち構えているかのような不敵なオープニングですが、実は観か客が抱くであろうその違和感こそ本作のミソだったりします。
この映画の舞台はデトロイト。
デトロイトと言えばかつて栄耀栄華を誇った工業都市。しかしフォードの凋落とともに没落し、現在は廃墟も同然の町。
ゆえにインフラ整備は壊滅的で警察も消防もほとんど機能しておらず、朝っぱらから血まみれ女を引きずっても誰も見とがめないってワケです。
…まあ町山氏の受け売りなんですが(;^ω^)
『ドントブリーズ』主人公側の強盗グループは、そんなドン底デトロイトに住むドン底ヤンキー。ドン底の人生からなんとか脱出しようともがく社会のボトムズです。
だから決して根っからの悪人ではない。生い立ちガチャでハズレを引いただけ。生きるためにしゃーなしで悪事を働いている…という性格で描かれているのです。ドロボーのくせにいっちょ前に自分を犠牲にして仲間を助けようとしたりするのはその証左。悪人が主人公の映画なのに自然と感情移入できるのは、この面がしっかり描かれているからでしょう。
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そして筋肉高齢者ことスティーブン・ラングが演じる盲目老人が怖いのなんの。
ただ単に「もともと盲人だから、視界が効かない暗闇では健常者よりも有利」というフィジカルな面だけでなく、実は〇〇〇〇でしたと判明する後半のどんでん返しがむちゃくちゃ効いてます。
異常に強いんだけどそこまで圧倒的でもないという微妙なサジ加減も「逃げきれそうで逃げられない鬼ごっこ」感が出てスリリング。
そんな感じで『ドントブリーズ』の感想でした。
久々にNetflixで配信再開となったので改めて観たけど、ほんと面白い!
吹き替えなら水樹奈々の怯え演技も堪能できるし、一石二鳥(?)だね!
「最前線の映画」を読む /集英社インタ-ナショナル/町山智浩
近年の傑作・話題作を紐解くのに必携の一冊。町山智浩の雑学王っぷりが冴えわたる!
『ドントブリーズ』はもちろん、共通点の多い『イットフォローズ』の解説も素晴らしい。