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『攻殻機動隊 SAC_2045』感想 アフター公安9課を描く新章

2020年4月24日

Netflixこの春最大の期待作『攻殻機動隊SAC_2045』がついに公開されました。

 

監督は名作『攻殻機動隊SAC』を手掛けた神山健治と、『アップルシード』で知られる荒巻伸志のダブル体制。
でも…このコンビが送り出した前作『ULTRAMAN』は正直微妙で(;^ω^)
戦闘シーンはカッコ良かったのですがドラマパートが終始間延びしており、げんなりするほどテンポが悪くて面白くなかったんですよね。登場人物らの所作がいちいち鼻につくと言うか妙に人形っぽくて、3Dアニメの弱点がモロに出てしまってた気がします。

だから再びこのコンビが『攻殻機動隊』新作を撮ると聞いた時には「あの『SAC』の続編が観られる!」という喜びよりも「大丈夫かよ…」気分の方が強かったのです。また3Dアニメだし。
しかも先行公開された少佐のビジュアルが誰おま状態で不安は倍増。

 

そんな訳で期待と不安の入り混じった気持ちで見始めましたが『SAC_2045』、なんとびっくり超面白かったです。
全体の構成も一話ごとの面白さも申し分なく、ビジュアル面でも大迫力。
『ARISE』に乗り切れなかった皆さんに朗報です。ぼくらの攻機が帰ってきた!!

しかも声優陣が『SAC』体制に回帰したのは素直に大喜びです。
やっぱ草薙少佐の声は田中敦子少佐じゃないと!
バトーは明夫でトグサは山ちゃんじゃないと!
坂本真綾みたいな声で喋る少佐に最後まで違和感を抱いてしまった身としては有難いことこの上ありません。

 

 

11年ごしの新章開幕

今回は公安9課解散後、元攻殻機動隊メンバーが北米を中心に傭兵として活躍しているところから話が始まります。ポスト9課を描いている点で、プレ9課の話だった『ARISE』とは対照的ですね。
で、そんな素子らの前に「ポストヒューマン」と呼ばれる謎の勢力が現れたことで新たな戦いの火蓋が切って落とされる訳です。
なお視聴者を突き放すようないつもの難解さは割と鳴りを潜めた印象。

 

攻殻機動隊らしく、テーマの現代的さも光っています。
人類に代わる新たな上位存在というテーマはまあ…手垢のついた話だし特に斬新と言う訳ではありませんが、全世界同時経済危機で社会の在り方がまったく変わってしまった近未来という舞台設定にはドキッとさせられます。

なにしろ2020年4月現在、現実の世界でもコロナウイルスが猛威を振るいまくり全世界に絶大な経済的損失をもたらし続けています。恐らくコロナ禍が過ぎ去ったあと、世界の様相が一変してしまうであろうことは多くの識者も指摘している所。まさに『SAC_2045』と相似形。
『攻殻機動隊』シリーズの魅力である「今日と地続きの未来」感に拍車がかかり、ストーリーに迫力が増しています。
ミクロ的にも高齢化社会やSNS炎上などにスポットを当てており、単なる近未来SFに留まらず飽くまで「現代」から派生した世界観が強調されています。
これだよこれ、これを待っていたんだよ!

 

せっかくなので各話の所感をまとめてみたいと思います。
ネタバレにはあんまり配慮していないのでご注意ください!

 

 

 

1.NO NOISE NO LIFE/持続可能戦争

笑い男事件から11年経った2045年…解散した公安9課の元メンバーは、民間軍事会社オブシディアンの傭兵として略奪犯らを取り締まる任に就いていた。

 

と言う訳で、いきなり派手なドンパチを披露してくれる新生少佐らの初披露会。
過去作に比べると解りやすいストーリーで始まったとは言え「レイド」や「さすてぃなぶっている」などの用語が説明無しでポンポン飛び出すアンフレンドリーな雰囲気は実に攻殻機動隊らしいですね。

戦闘シーンはすさまじい迫力。
『ULTRAMAN』のときの人形っぽさはなく、地に足のついたリアル寄りのアクションが冴えわたっています。
走行するジープから飛び降りるバトーの、慣性の利いた走りっぷりに惚れ惚れする!

 

って言うかトグサ離婚したのか…あんなに家庭人だったのに。それでいいのか。
そしてポッと出の新キャラにお株を奪われて、居ないことになっているパズとボーマ。泣ける。

あと内閣総理大臣が白人のアメリカ人という衝撃的な設定にも要注目です。
歴代首相の肖像に個別の十一人事件のときの総理ちゃんが居るのも芸が細かいですね。

 

 

2.AT YOUR OWN RISK/壁が隔てるもの

レイディスト(略奪犯)を追い詰める素子らだったが、意外な反撃に遭い苦戦してしまう。

 

本格的な戦闘が始まった第2話。貧富の格差が物理的にも壁で隔たれるようなレベルにまで拡大していることが窺われます。

敵の四足戦車も味方のタチコマもグイグイ動きまくり、こりゃおカネかかってるわーと驚嘆せしめる凄い戦闘シーンの連発。
もうこの時点で超楽しい。サンキューネットフリックス。

 

で、終盤に登場するデルタフォースとグラサン野郎。
まるで『マトリックス』に出てくるエージェントスミスだなと思ったら本当にスミスさんだった。
『マトリックス』が攻殻機動隊の影響をモロに受けているのは周知の事実なので、これは…逆オマージュ?

 

 

3.MAVERICK/作戦行動中行方不明

スミスから作戦への参加を強要される素子たち。一方トグサは少佐たちの足取りを追うが…。

 

シボレーカマロっぽい車で持ち味の探偵スキルを発揮するトグサ。
このカマロが自動運転じゃないってのは何かの伏線かと思ったけど、そんなことは無かったぜ。
焼きイモ屋のおばちゃんの電脳は何かの伏線かと思ったけど、そんなことは無かったぜ。

あとダークウェブで手掛かりを追うトグサに「逃げた方がいいよトグサくん」って忠告くれたの誰?

 

 

4.SACRIFICIAL PAWN/分界よりの使者

少佐らを追うトグサは危険を承知で賭けに出る。
一方で荒巻は、素子の身柄を確保するために国のトップ同士を巻き込もうとしていた。

 

サスティナブルウォーは冷戦を模した経済活動であることが明かされます。
現代に至って大国同士の全面戦争が起き得なくなったのは戦争が手段として「割に合わなく」なったからと言う説がありますが、それは逆に言えば「割に合う」戦争なら現代でも起き得ることの裏返し。サスティナブルウォーはその究極の形なのかも知れません。

 

あとトグサのせいで少佐らの素性がジョン・スミスにバレましたが、結果的にはそれで良かったんじゃねということになってます。ラッキートグサ。

女性の扱いや政治面での駆け引きなど、荒巻の凄さがよく描かれた回でした。

 

 

5.PATIRICK HUGE/神からの贈り物

スミス主導のもと、ついに作戦が発動。ターゲットに肉薄する素子らは驚くべき相手に遭遇する。

 

ターゲットはパトリック・ヒュージだけど、少佐の目的は彼を人質にしての包囲網脱出。
作戦が終われば自分達が消されることなどとっくに織り込み済みという、少佐らしい抜け目無さが発揮されててグッドです。

で、いよいよ今回の目玉であるポストヒューマンがお目見え。
超キモイ動きで銃弾を躱しまくるヒュージ氏は、人間以外の何かであることを主張するには十分なインパクトのビジュアルでした。
特に全裸バク転が強烈。

終盤のパワードスーツ戦も大迫力で楽しめました。
サイト―、撃てええぇ!!
そいつをよこせええぇ!!とか怒鳴られがちなサイト―。

 

 

6.DISCLOSURE/量子化された福音

日米外交ルートから作戦介入を果たし、大統領命令を引き出した荒巻は事態をいったん収束させる。
スミスの口から語られたのは「ポストヒューマン」と呼ばれる脅威の存在だった。

 

スタンが大した活躍もできないまま疑似記憶をかまされて(しかもギャラは真相を知るまでお預け)退場してしまった涙のお別れ回。
ほんとキミ何しに出てきたの。おもしろ君…( ;∀;)

そしてポストヒューマンの怖すぎ&無敵すぎの強さが強調されたバトル回でもありました。
部屋の気温や湿度をすべて計算しつくして紙飛行機を飛ばしているという所作は、高野和明『ジェノサイド』に出てくる「落ち葉を狙った場所に必ず落とすことが出来る新人類」を彷彿とさせます。一見何でもないことに見えて、実は莫大な演算処理を行っている所が。

 

 

7.PIE IN THE SKY/はじめての銀行強盗

プチ事件に巻き込まれるバトーを描いた、コメディタッチの番外編。

紙幣なんか使っているのは高齢者だけ。
その高齢者も今や、死ぬのにさえお金が要る有様…というブラックユーモアが冴えます。

今更ですけど、本当に上手いですよね大塚明夫。
大金をして「これは俺が必死で遊んで稼いだカネだ」とのたまえる大人になりたいものです!

そしてパズとボーマ合流。良かった、居ないことになったのかと思った(;^ω^)
でもプリン、誰だよお前は。

 

 

8.ASSEMBLE/トグサの死によってもたらされる事象

不穏過ぎるタイトルの第8話。
「もう一度少佐について行きたいんです!!」という気持ちを鮮やかな行動で示すトグサを描いたトグサ回です。

得意の探偵スキルだけでなく、電脳戦もバトーをして少佐並みと言わしめるレベルに至ったトグサ。イイヨイイヨー
山ちゃんの名演が光る熱い話でした。

 

それとどうやらプリンは新キャラのもよう。よかった、忘れてる訳じゃなかった。
一人だけオーバーアクションで話すプリンは、全体的に所作が落ち着いている今回の攻機メンバーの中にあっては良いアクセントになってます。
そうじゃなかったら単なるウザキャラになるところでした…危ない危ない。

プリンの指摘する「ポストヒューマンは人間の脳がネットに接続できるようになったことで生まれた新人類」という説は、ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』の終章で示唆されたホモサピエンス以後の人類の形と相似形です。もしかしたら人類の歴史すべてが、ポストヒューマンを生み出すための前段階だったのかも…。

 

 

9.IDENTITY THEFT/一人きりの闘争

いよいよポストヒューマン狩りを本格始動する新生公安9課。

外国人の生活保護不正受給など、今日の日本社会でも問題視されている要素が出てきました。

一瞬で目を盗まれるので、目の前に立っていても誰も気付かない…ポストヒューマンのチート無双ぶりを改めて思い知らされる怖い話でした。
ポストヒューマン化しても人間だった頃の習性は残るという重大な事実が明らかにもなりました。咄嗟にそれを閃き、逆手に取って相手をハメる少佐カッコ良い。

あと「俺は傀儡じゃねぇ」という気概を殺人鬼相手に一歩も引かず堂々誇示した総理もカッコ良い。
総理は今後も重要キャラ間違いありません。

 

 

10.NET PEOPLE/炎上に至る理由

莫大な人数のハッカーから個人が同時攻撃され電脳が破壊される事件が発生。
ポストヒューマンの関与を疑い、公安9課は捜査を開始する。

 

SNS炎上という、またも今日の日本社会で問題視されている要素がテーマの一篇。
「みんなが悪いと思ってる奴にはどんな暴力も許されるんだ」という炎上させる側の傲慢な心理を、サイバーサスペンスに昇華させたアイデアが秀逸です。そこには民主主義と魔女狩りの明確な差異が潜んでいます。

幼稚で独善的な正義を「ピュア」と一蹴する少佐の貫禄にも惚れぼれします。中身はたぶん40-50歳くらいだもんなぁ少佐…。
相手が弱いとブルース・リーの真似をしておちょくり倒すトグサがキュート。

 

 

11.EDGELORD/14歳革命

本作のキーキャラ、シマムラタカシが登場。
CVはまさかの林原めぐみ。

「ジョージ・オーウェルの『1984』はどこで手に入れたのか」
「タカシ自身は一人っ子のようだけど、彼をお兄ちゃんと呼ぶユズは何者か」
「なぜ空挺部隊なのか」
と言った違和感がすべて次話の伏線になっている二話構成でした。

泣き崩れるシマムラタカシの母親にそっと寄り添うトグサが泣かせる。
離婚してても元・妻子持ちだもんね…。

 

 

12.NOSTALGIA/すべてがNになる。

シマムラタカシの痕跡を追うトグサは、正体不明の感情に襲われ意識を失う。

 

NとはNOSTALGIAのNでしょうか。
シマムラタカシの衝撃的なルーツが明らかになった一篇です。
でも本当に衝撃的なのは途中で終わってしまったこと
っておい! 完結しないのかよ『SAC_2045』!
こんないい所でクリフハンガーして終わるなんて、ネットフリックスのドラマかよ!
ネットフリックスだったわ!
ファッキン!!

 

でもなぜトグサがシマムラタカシについて行ってしまったのかは、考察し甲斐のある要素です。
おとり捜査のつもりなのか…。
シマムラタカシの「郷愁」に共鳴して、ポストヒューマンに同調してしまったのか…。
いずれにせよ答えは2期までお預けです。
ファッキン!!

 

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