ハッピー夏至!
という訳で世間の波に乗り遅れることおびただしいですが、ようやく鑑賞しました『ミッドサマー』。
いやー…厭な映画でしたね。期待どおり、噂どおり、想像どおりですよ。
長編二作目でこの作家性の確立っぷりは末恐ろしいったらありゃしない。まったくもって天才ですよねアリ・アスター。
以下の記事 ネタバレ注意!!
ミッドサマー
2019年 アメリカ
監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー
評価 C
家族の死にトラウマを持つ女子大生のダニーは、気分転換に恋人クリスチャンといっしょにスウェーデンのお祭りを見に行くんだ。
最初は独特の雰囲気にちょっぴり引き気味のダニー。でも村人と徐々に打ち解けていくよ。
後期高齢者の脳みそが飛び散ったり、クリスチャンが現地の村娘に陰毛食わされたりと色々あったけど、最終的にはダニーはトラウマを克服して幸せになるんだ。
「ここに来てよかった!」
ラストシーンはダニーの満面の笑顔でハッピーエンドさ!
…というお話の本作。嘘は言っていない。
アリ・アスターが「この映画は恋愛映画なんだ」とのたまって世界中の映画ファンをピヨらせたというエピソードが語り草になっていますが、別に奇をてらって変ちくりんなことを言ったワケじゃなく本当に恋愛映画のつもりで撮ったんでしょう。
だって「若い女性が恋人の献身のおかげで立ち直り、幸せになる話」だもんねコレ。恋愛映画としてスタンダードなテロップ。美談とさえ言える。
ただ一点、倫理観が従来からかけ離れていることを除けば。
恋人(やや薄情)と一緒にトラウマ克服旅行に出る女子大生のダニー。
しかしこの映画の監督がアリ・アスターだったばっかりに、筆舌に尽くし難い壮絶体験をするハメに…!
映画が始まって10分で、いきなり観客は絶望のドン底に叩き落とされます。
そこで描かれるのは「精神疾患」「家族の死」「遺族の慟哭」などなど、まったくブレることなく同監督の前作『ヘレディタリー/継承』と一緒。
身内の死を知ってフローレンス・ピューが絶叫するシーンなんか、『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレット号泣シーンと画面構成さえ一緒です。
手掛けた作品に通底する要素を作家性と呼ぶなら、アリ・アスターほど純真かつヘビーな作家性を発揮する監督は他にいないでしょう。
だってまだ二作目ですよ?
今更ながら天才中の天才ですよねこの御仁。
で、くだんのスウェーデンの田舎村に到着するダニーとその恋人クリスチャン。とクリスチャンの友人数名。
90年に一度の大祝祭に立ちあえてラッキーと、のん気にもハッパ吸ってくつろいだりします。
しかしこの後にはもちろん地獄めぐりツアー(強制)が控えてる。
カルト集団に足を踏み入れた結果さんざんな目に遭う映画は『ウィッカーマン』のほか枚挙にいとまが無いですが、本作も期待通りの展開を披露してくれます。
次々とハードコアな生け花にされていく旅の仲間。
主人公のダニーも写真の通り、オープン直後のパチンコ屋みたいな有様に。
ホラー映画における脅威と言えば、ジョーズやエイリアンのように無作為に犠牲者を選んで八つ裂きにする災害タイプと、『ハロウィン』のブギーマンのように明確な殺意と悪意をもって襲い掛かってくる知性タイプの二種類があると思います。
しかし『ミッドサマー』の村人たちはそのどちらでもない。そこがこの映画の一番怖いところ。
そもそも村人たちにダニーらに危害を与えようという気は毛頭なく、むしろ彼らなりの敬意をもって接しているという点がますますタチ悪い。
彼らの行動理念はただひとつ「コミュニティ―の秩序を守る」それだけです。悪意などない。常識が通用しないだけ。
その怖さが大爆発するのが終盤のあのシーンでしょう。
クリスチャンが地元の村娘に性交を強要される例のシーン。
悪夢的な状況を容赦なく連打し、観客の現実感を破壊する手法が『ヘレディタリー/継承』よりさらにパワーアップしています。
近親姦を避けるため、村は定期的に外部の血=遺伝子を欲していた…。
白羽の矢が立ってしまったクリスチャンは、精力剤と幻覚剤を盛られたあげく村娘といたしてしまいます。
…と、文面だけならクリスチャンにとってむしろご褒美的シチュエーションと思えなくもないですが、画面の異様さは狂気の沙汰。
なにしろ全裸で抱き合う若い二人を、全裸のババアたちがぐるっと囲んで見つめてきます。
村娘が悦楽の喘ぎ声を漏らすと、ババア達もその嬌声をリピート再生する。
しまいには正常位でガンバるクリスチャンの尻をババアの一人が後ろから鷲掴みにしてピストンを促してくるという、安心と充実のサポート態勢が発揮されます。
悪夢的という言葉すら生ぬるい激グロシーンです。
心のゲロが止まらない。ちょっとしたマーライオン状態。
これだけやってもやっぱり害意はなく、むしろ祝福の気持ちの表れだという点がなおさら気持ち悪い…。
最終的には村人の側へ陥ってしまうダニー。
しかしその表情は晴れやかで、ついにトラウマから解放されたのだと一見して分かります。
人生が辛すぎるならいっそバカになればいいじゃない―という主張は『ヘレディタリー/継承』と共通。
現代社会への根深い不信感…というより強い失望が感じられます。
いったい何があったんだアリ・アスター。
誠心誠意のおもてなしを体現する村民のみなさま。ありがた迷惑。
しかし…正直申し上げると『ヘレディタリー/継承』の方がずっと怖かったし後味悪かったし面白かったです。
『ミッドサマー』が世界中を席捲するエッジの利きまくった傑作であることは間違いありませんが、私好みではない…。
具体的にどこが気に入らないって、長いんですよ!尺が!
全編通して意味不明な儀式のシーンばっかりで「( ゚д゚)ポカーン」とさせられる時間が長すぎるんです。
一言で言えばテンポが悪い。
いえ、分かってますよ?
意味わからん儀式のシーンが長いからこそ「話も常識も通用しない連中に徐々に追い詰められていく…」という恐怖が効いてくる、と言いたいでんしょ。
そんなの承知のうえで言っちゃうけど、退屈パートが長すぎてダレましたよ。
不安を煽って煽って煽って、ある瞬間でブレイクダウン!という構成は成立してるけど、煽られ疲れちゃった感じ。
本作には地獄延長戦ことディレクターズカット版もあるらしいですが…まったく食指動かないよー。
だって多分、意味不明な儀式シーンが追加されてるだけでしょ?
前半のダニーの自室やクリスチャンらのシェアハウスには象徴的なモチーフがいっぱい散りばめられていたので、おそらく二度見三度見とするうちに新たな気付きや理解が得られる作品だとは思います。
思いますが…もういいです。
なんて感じで「2時間半もやる必要あった?」と思わなくはない本作ですが、その類まれなるグロテスクさ・不愉快さは十二分に堪能できました。
アリ・アスター監督の次回作は「コメディ」らしいですね。
『ミッドサマー』でもクマスーツ着せられて無の表情で炎上するクリスチャンとか、いけにえに志願した村人が燃えながら
「え、これ思ってたんちゃう…めっちゃ痛くて苦しいじゃないですかやだーーー!!」
と断末魔をあげるシーンとかは普通に笑えたので、ゆかいな映画もいけるんじゃないですかねアリ・アスター。
なんちゃって、もちろん「コメディ」という言葉通りの映画に仕上がるワケがないので今から期待です!