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『シャザム!』感想 大いなる力には大いなる責任が…伴わねー!!

アメコミ映画界隈が『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開を目前にして期待と興奮で沸き立っている2019年4月現在。
その前座的な位置づけながら大好評を博しているヒーロー映画がある。
DC映画の『シャザム!』だ。

出展:IMDb

バットマンやスーパーマンと世界観を共有している『シャザム!』は「少年がスーパーパワーを手に入れて悪との対決に挑む」という王道のヒーロー映画。
そういう意味では最近よくある映画の一本ではある。しかし映画自体がアメコミというメディアに対するパロディになっているという点で強い個性を放つ。生粋のアメコミ映画でありながら、同時にアメコミいじり映画なのだ。
マーベルにおける『デッドプール』の立ち位置と似ているだろう。

 

メタ的な笑いとアクションとちょっぴりの涙に彩られた『シャザム!』は間違いなく面白かった。非常に楽しい2時間半を過ごせた。
だが観終わってみたときに正直に感じてしまったのは、「『デッドプール』ほどハジけてなかったなぁ…」という物足りなさだった。

 

なお本作には「キャプテン・マーベル」という呼称は一切登場しない(むしろ毎回違う名前で呼ばれるというネタが定番化されている)。
名作コミック『キングダム・カム』などではキャプテン・マーベル扱いだったのに、その名前だと今や誰もがブリーなラーソンを思い浮かべてしまうからだろう(他にも複雑な事情があるようだが)。
こいつらとは別に"Msマーベル"という伸び縮みする別キャラもいるし、ややこしいよアメコミ!

【チラシ付き、映画パンフレット】キャプテン・マーベル 監督 アンナ・ボーデン、ライアン・フレック キャスト ブリー・ラーソン、ジュード・ロウ、サミュエル・L・ジャクソン、クラーク・グレッグ

 

 

以下の記事 ネタバレ注意!!

 

 

必然無用のたまたま系ヒーロー!

アメコミにおけるヒーローには二種類居る(と思う)。
自らの意志でヒーローになった者と、自らの意志とは関係なくヒーローになった者だ。

 

キャプテンアメリカは前者の頂点に立つキャラだろう。なにしろ志願制に応募して採用されたヒーローだ。
逆にスパイダーマンはピーターの意志とは無関係に蜘蛛が勝手に噛んできただけなので、後者に相当する。
スーパーマンは前者と後者の両方の特徴を持っていると言えるだろう。

 

今回のシャザムはまごうことなき後者。まったくそのつもりは無かったのに、成り行きでヒーローになってしまった系主人公だ。
しかもただの偶然よりなおタチが悪く、しゃーなしでヒーローになったという超消極的なモチベーションのオーナーである。

 

出展:IMDb

 

古代より邪悪な魔物の封印を守ってきたある魔術師は、自分の後継者として「心が清くて意志が強い人物」を長年にわたって探し続けてきた(恐らく数百年スパンで)。
しかし理想的な勇者はなかなか現れず、採用試験は難航。そうこうしているうちに、悪の人間Dr.シヴァナが魔物の封印を解き放ってしまうのだった。

人類滅亡まで秒読み…!
待ったなしの状況に追い込まれた魔術師は、たまたま居合わせただけの少年ビリーに全てを託してしまう。
以前は厳しい試験があって全員それで不合格になってたのに、件の事情でビリーだけフリーパス(にせざるを得なかった)。
数百年の苦労が水の泡。

かくして心が清くも強くもない、アメコミ界でも珍しい真・偶然系ヒーローが誕生してしまったのだった。

 

 

当然自分のために使うよね

出展:IMDb

強大な力を得たビリーだったが、特に何のモチベーションも持っていないので当然の様に力を持て余し、やがて超ミクロな発想での私利私欲にパワーを使いまくるのだった。
ここがある意味本作の最大のハイライト。バカバカし過ぎて超笑える。

なにしろ

・大人の姿になったことをいいことにストリップバーに出入りする
・稲妻パワーで自販機を故障させてコーラ飲み放題
・アイオブザタイガーの替え歌に合わせて手から電撃を出して通行人から小銭を貰う

などなど、やることが非常にしょうもないのだ。

 

善良でも邪悪でもない、普通の(バカな)少年がスーパーパワーを持ったら確かにこんな感じだろうなという妙な説得力がある。
ある意味ベンおじさんが死ななかった版ピーター・パーカーだ。
「大いなる力には大いなる責任が伴わ…ねーよバーーーカwww」みたいな。

 

 

家族サイコー神話に終止符

『シャザム!』は現代的な家族の在り方を描いたドラマとしても見ごたえがある。

主人公ビリーと悪役Dr.シヴァナには、強大な魔術の力を得たこと以外にも共通点が多い。
実の親に酷い目に遭わされた点、そしてそのせいで孤独な人生を強いられてきた点だ。
特にビリーの母親であるレイチェルのどうしようもないクズ親ぶりは、本作の能天気なトーンから浮くほど暗い要素だ。

 

私はハリウッドにはびこる「家族って☆サイコー!」的なおめでたい雰囲気が前から嫌いだった。
家族と一言にくくっても実態は様々で、深刻な問題を抱えた親子だって死ぬほど多いのだ。職業柄嫌と言うほど見てきた。
そんな社会の現実から目を背けて「家族ってイイネ!」「家族ってだけで最高ダネ!」と祭り上げる偽善にはほとほと嫌気が差していたのだ。
ピクサーの『リメンバー・ミー』とか。
『シャザム!』がビリーの親をあそこまで容赦なくクズ扱いした思い切りはとっても評価したい。

 

そんな「与えられた負の条件」を共有するビリーとDr.シヴァナだったが、超越的なパワーを手にしたときに二人の選択した行動は決定的に違うものになった。
Dr.シヴァナは力を使って家族に復讐したのに対し、ビリーは力を新たな家族に分け与えたのだ。

家族というものに自ら心を閉ざして内に引きこもったシヴァナと、勇気を出して心を開いたビリーの人間としての強さの差が伺える。
ビリーの里親のセリフである「彼がここを"家"と呼べるかどうかは彼次第だ」というセリフも象徴的。
誰もシヴァナに孤独を強いてはおらず、ビリーも里親を家族と認めるよう強制されてはいない。

結局何を、或いは誰をもってして家族と考えるのかは本人次第なのだ。そしてその真理に辿り着いたからこそビリーは勝利することが出来た、という訳である。

記号としての「家族」を否定し、自ら選択する運命として「家族」を再登場させる。
この工夫があってこそ、終盤のシャザム大行進が強いカタルシスを放つ。

 

 

パロディ山盛り

前述の通り、映画のコンセプト自体がメタ的である『シャザム!』。
いろんな映画のパロディがてんこ盛りであり、その元ネタ探しも非常に面白い。

 

 

『ビッグ』

コドモがオトナになっちゃった映画の金字塔『ビッグ』。
『シャザム!』にとってはある意味大先輩であり、したがって劇中には『ビッグ』へのリスペクトがこれでもかと盛り込まれている。

ビッグ (字幕版)

最も顕著なのはシャザムとDr.シヴァナがおもちゃ屋さんで追いかけっこするシーンだろう。
床に敷く鍵盤型のおもちゃ(踏むとドレミの音が出るやつ)が登場してるじゃないですかーやだー!
このおもちゃは『ビッグ』の中で非常に印象的な使われ方をした鉄板アイテムである。この上をシヴァナに全力疾走させるという粋な演出がたまらない。

 

クライマックスに移動遊園地を持ってくるという工夫も憎い。移動遊園地は『ビッグ』のキープレイスだからだ。
しかも遊園地がビリーにとって家族の原風景であるというダブルミーニングも兼ねている。ほんと憎いねー!

 

 

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(字幕版)

映画終盤で、激闘を繰り広げるシャザムとDr.シヴァナを見た少年が、驚いてそれまで遊んでいたバットマンとスーパーマンの人形を床に放り出す。
二大ヒーローに対するぞんざいな扱いが笑える。

 

 

『スーパーマン・リターンズ』

スーパーマン リターンズ(字幕版)

ブライアン・シンガー監督による隠れた傑作『スーパーマン・リターンズ』。
スーパーマンが撃たれると弾丸がひしゃげて床に落ちるという場面は同作で最も印象的なシーンであり、『シャザム!』でも引用されている。
しかしシャザムの場合、顔面を撃たれて「いてっ、いて痛ぇーよ!」とのたまうので緊張感ゼロ。

 

 

『アクアマン』

アクアマン ブルーレイ&DVDセット (2枚組) [Blu-ray]

某アトランティスの王をマネして、金魚に必死で話しかけるシャザム。
エンドロール後に挟まれる愉快な小ネタである。
金魚は淡水魚だし、アクアマンでも無理なんじゃないかな?

なお「海底の大軍勢を率いることができる」というアクアマンのアイデンティティを「えー…イマイチ」でバッサリ斬り捨てる蛮勇もステキだ。

 

 

マーク・ストロング

グリーン・ランタン (字幕版)

別にパロディではないが、この人いっつもヴィランやってるなと思って挙げてみた。
『キック・アス』でしょ?
同じDC映画の『グリーン・ランタン』でしょ?(必ずしも悪役じゃなかったけど)
で今回の『シャザム!』でしょ?
アメコミ映画以外でもダウニーJrの方の『シャーロック・ホームズ』で悪役やってるし。

もうクロスオーバーしてスーパーマーク・ストロング大戦を勃発させられるレベルかと。
何人登場しても髪の毛は0本。

 

 

ハジけが足りない…

と言う訳でいろいろ魅力的な点が多いのだが『シャザム!』、正直申し上げるとハジけが足りないと思ってしまった。
「第3の壁」を越えられるデッドプールとハジけっぷりを比べるのはフェアじゃない気もするが、単純にギャグが滑っている場面が多いのだ。

 

たとえば末妹のダーラはアニー的なウザかわいいキャラで押して来ているが、あまり面白くないので正直ウザいだけで終わってしまっている。

話の主軸になってくるビリーとフレディの友情も消化不良感が強い。
フレディはビリーをして「お前はパワーを得て尊大になっているだけだ!そんなヤツ友達じゃない!」と怒ったが、そう言うフレディもシャザムに変身したビリーに散々な扱いをしてきた。嘘ついて着火してくるヤツも友達としてどうかと思う。

ユージーンとペドロに関してはエピソード自体が少なく、存在感が薄すぎる。終盤のシャザム大行進に加わってきても「え、君たちも来ちゃうの?モブなのに?」と困惑してしまった。

繰り返し出てくるサンタさんも全シーンでスベっている。

色んな所で作りが甘いのだ『シャザム!』。

 

 

来るかジャスティスリーグⅡ!?

ジャスティス・リーグ(字幕版)

と、まあ言いたいことはあるが全体としては非常に愉快な作品にまとまってる『シャザム!』。

ザッカリー・リーヴァイ演じるシャザムは他キャラとのトークで真価を発揮するキャラなので、是非ともジャスティスリーグに合流してそのおしゃべりっぷりを如何なく発揮して頂きたい。
特にフラッシュと絡むと多分凄いカオスな会話になると思う。早口で。
スーパーマンとはもう友達らしいし。

 

…しかし肝心かなめのスーパーマンは、演じるヘンリー・カヴィルが卒業宣言しリヴィアのゲラルトにジョブチェンジしてしまった。
バットマン役のベン・アフレックもすっかりやる気を失くしている。

 

中心人物二人がそんな感じなのでもうポシャったと言っても過言ではない状況だが、せっかく『アクアマン』が記録的大ヒットを飛ばして追い風だし今こそ再集結してくれージャスティスリーグー!!

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