突然ですが質問させて下さい。
今までの人生で、いちばん大笑い瞬間はいつでしたか?
人によっては、給食中に咳き込んで鼻の穴からダブルで牛乳噴き出たときと答えるかも知れません。
あるいは高校の授業中に物理の先生が「物体B」を「びったいぶー」と言い間違えたときと答えるかも知れません。
100人いれば100通りの回答があるでしょう。
しかし私の答えは決まっています。
それは映画『おれたちニュースキャスター!』を観たときです。
俺たちニュースキャスターはウィル・フェレルが主演をつとめる2004年のアメリカ映画。
おバカなテレビ局員たちが、新人イビりをしようとして逆に散々な目に遭うドタバタコメディです。
これがもう心底面白くて!
私のつたない文章力ではその面白さがカケラも伝わらないのがハガユイですが、とにかく上映時間90分のあいだ、抱・腹・絶・倒のキワミでした。
笑い過ぎて死の危険を察したのは後にも先にもこのときだけです。
そんなレジェンド・オブ・コメディ映画において主演をつとめたウィル・フェレルは、当然私の中ではキング・オブ・コメディ俳優。
『俺たちニュースキャスター』以外にも『おれたちフィギュアスケーター』や『ジ・アザー・ガイズ』など超笑える作品に出演目白押しで、とにかく大好きな俳優なのでした。
しかし…。
近年のウィル・フェレルは在りし日のキレキレっぷりは衰え、見るも無残な老害になり果てている気配があります。悲しいかな。
直近の出演作も
『パパvs新しいパパ』
『俺たちホームズ&ワトソン』
などなど、こりゃあかん的なガッカリ作品ばっかり。
「フェレルはもうダメかも分らんね…」
私は落胆のあまり夜ごと枕を濡らすのでした。
そんなある日のことです。
Netflixからウィル・フェレル出演の新作コメディ『ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~』が配信されたのは。
「えー…どーせまたイマイチなんでしょ?」
といぶかる私でしたが、まあせっかくだし試しにと観てみたわけです。
そしたらなんと…
フツーでした(;^ω^)
面白くないんだけど、事故物件と呼ぶほどヒドくはない…。
と言うより、イイ所いっぱいある映画なんだけどフェレルがウザ過ぎて結果的にプラマイゼロになってる感じです。
ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~
2020年 アメリカ
監督:デヴィッド・ドブキン
出演:ウィル・フェレル、レイチェル・マクアダムス
評価 D
物語はアイスランドの片田舎で始まります。
中年男のラース(ウィル・フェレル)は、いい年こいて定職にも就かず音楽ばかりやっているプー。
ユーロビジョン歌合戦(セリーヌ・ディオンも輩出した実在の大規模オーディション番組)での優勝を少年時代から夢見て、そのまんま大人になってしまった子ども部屋おじさんです。
そんな彼を励まし続ける村一番の美女、シグリット(レイチェル・マクアダムス)。
ラースとシグリットはバンド「ファイア・サーガ」を組んで日夜練習に明け暮れるのでした。
そんなある日、様々な偶然が重なってファイア・サーガがユーロビジョンに出場することに!
ラースたちは並み居る強豪を突破し、優勝をつかむことが出来るのか!?
…というお話です本作。
まず言いたいのは、とにかくレイチェル・マクアダムスが輝いてるってこと。
レイチェルと言えば『ドクター・ストレンジ』みたいなヒーローものから『スポットライト』とかの骨太ドラマまで何でもこなす実力派。
でもやっぱりコメディに出演しているときが一番イキイキしてるように見えますよね。
直近では『ゲーム・ナイト』が白眉!御年40歳とは思えないプリティな存在感を放っていました。
シリアスな役よりもコメディエンヌとしてこそ本領を発揮するレイチェル…本作との相性はバッチリです。
なお、ラースとシグリットが出会うことになるイケメン天才シンガーは"野獣"ダン・スティーヴンスが演じています。
ダン・スティーヴンス…。顔立ちが整い過ぎて逆に知性を感じない所にジェームズ・マースデンとかと似た雰囲気を個人的に感じてしまうのですが…どうでしょう。
妄想で謎PVを再生してしまうラースとシグリット。
ダサすぎて笑ってしまうが、歌がフツーに上手いのがさらに可笑しい。
本作の見どころは何といってもミュージカルシーン!
おバカなコメディである本作ですが、ステージシーンや楽曲にはまったく手を抜かない情熱が素晴らしいです。
ウィル・フェレルはこれまでも『俺たちニュースキャスター』や『俺たち義兄弟』で豊かな音楽的素養を披露してきましたし、ダン・スティーヴンスに至ってはディズニー映画主演経験アリで歌が上手いのはある意味当然。
しかし二人に加え本作ではレイチェル・マクアダムスまでもが歌唱にトライしています。編集の仕方もあるのでしょうが、これがもう上手いの何のって!
さすがに100%本人ではないようですが、楽曲にレイチェル本人がクレジットされておりちゃんと歌ってるもよう。凄いなー歌もいけるのか…!
ヒット曲のカバーも楽しく、中盤のパーティーシーンでの「ソング・ア・ロング」はかなり見ごたえあり。
"フザけてるのにクオリティはガチ"って笑いの王道ですよね!
圧倒的な歌唱力を見せるダン・スティーヴンス。
ラースたちに"Be Out Guest(くつろいで)"と言ったり、美女と野獣ネタには事欠きません。
持ち歌も思いっきり"野獣"をイメージさせる曲。がおー
で、そんな愉快なミュージカルシーンで彩られた本作ですが…。
仕上がりは残念の一言。
何がイカンって、ウィル・フェレル演じるラースがクソ野郎過ぎるんですよ。擁護のしようがないチンカスです。
助けてくれたアメリカ人旅行客に一言も礼を言わず、むしろ徹頭徹尾バカにし続けたり。
気に入らないことがあったらそのへんのゴミ箱をブチ撒けたり、人が入ってる簡易トイレを横転させたり(ヘタすりゃ死ぬぞ…(-_-;))
幼稚さがいちいち鼻につく不快なキャラクターなのですが、特に許せんのが後半の展開です。
ついにたどり着いたユーロビジョン予選。
しかしラースとシグリットは舞台の上で大失敗をかまし、大恥をかいてしまいます。
それでも一応最後まで歌い続けたガッツには素直にグッと来ましたが、その後がいかん…。
なんとラースは、レイチェルを置いてそそくさと故郷に帰ってしまうのです。
「これ以上笑いものになるのはイヤだ」とか何とか言って。
シグリットは「失敗はあったけど私たちはやり切った。たとえどんな結果になろうとも誇りをもってそれを受け止めるべき」と説得しますが、まったく聞き入れず逃げ帰ります。
とんだチキン野郎です。
プライドばっかり高くて何の覚悟もない、アーティストの風上にも置けないこどオジです。
悲惨な大恥をさらすが、意地で歌いきる二人。
この後ラースは相方をあっさり見捨てます。〇ねチンカス野郎!
しかしラースの悲観に反して、ファイア・サーガは失敗にめげなかった情熱が評価されて本選進出を果たします。
故郷でその報せを受けたラースは、なんとしゃあしゃあとユーロビジョン会場に舞い戻って来ます。
いったいどのツラ下げてシグリットに会うつもりなんだYO!
…と思ったらラース。
本番中にシグリットの舞台に乱入して演奏を中断させ
「歌は優劣を競うためにあるんじゃない!」
みたいな謎精神論を振りかざして自分の歌いたい曲を唐突に演奏し始めます。
どっ、どこまでブチ壊せば気が済むんだ!
シグリットだけで歌い続ければ可能性は低くとも優勝の目さえあったのに、乱入のせいで失格になったのでそれもおじゃんです。
しかしシグリットはラースの乱入を心底喜び、二人は結ばれハッピーエンドになるのでした。
なんだこの映画!
ひどすぎるだろ!
シグリットがラースにどうしてそこまで入れ込むのか、とにかく意味不明です。その一番大事な動機付けが欠如しているので映画全体がすっごくぼんやりした話になってしまっています。
「自分を育んでくれた故郷や幼馴染はプライスレス。成功や名声などちっぽけなものさ。」
と言いたいのでしょうが…。
そこに至るための説得力がまるで無く、逆にラースのうんこ人間ぶりだけ見せつけられて来たのでシグリットの選択にまったく感情移入できません。
せっかくシグリットがクライマックスにアイスランド語で持ち曲を歌っても「…なんで?」程度の疑問しか湧かずぜんぜんカタルシスがない。
ラースがクソ過ぎて、シグリットを狙うイヤミなイケメン枠で出てきたダン・スティーヴンスが普通にいい奴になってしまってる有様です。
シグリットがラースに固執する理由がますます分からん…(;^ω^)
そんなこんなで、ミュージカルシーンには確かな見ごたえがあるものの "老害" ウィル・フェレルの跳梁でなにもかも台無しになってる作品でした『ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~』。
もうフェレルは前線を引いた方がいいんじゃないですかね…。
かつてのエディ・マーフィ―がそうしたように…。
これじゃ晩節汚しまくりですよ。全自動晩節汚し機です。
そう言えばラースの父親役をピアース・ブロスナンが演じていますが、ほとんど脚本のセリフを読み上げるだけの省エネ演技で脱力。
「ウィル・フェレルの父親がピアース・ブロスナンとか草wwwそんなに歳離れてないだろwww」
という出オチ以外には特に意味のない配役でした。
あっ、でもエルフや焼死幽霊の出し方は好きでしたよ!