映画

『ダンケルク』感想 時間という切り口で戦場を表現したノーラン渾身の実話大作!

■■■■■■■■■■ 10点

【あらすじ】
第二次世界大戦初期、ヨーロッパ。
イギリス・フランスら連合国軍はドイツ軍を前に敗退しダンケルク海岸に追い詰められていた。絶体絶命の兵士たち、その数40万人。
物語は海岸の兵士を描く「防波堤編」、兵士たちを救助に向かう民間船を描いた「海編」、海岸の制空権争奪に奮闘する戦闘機乗り達を描いた「空編」の三編が並行して展開する。
果たして敵地に残された40万人の運命は。
驚異の大傑作です。
戦場追体験ムービーとして二世代くらい先を行っている凄い作品。
絶対にIMAXで観るべきです!これおうちのテレビで観ても価値半減だよ!

超研ぎ澄まされてる

本作を一言で表すならそう、「シンプル」です。
なにしろ短い。そしてセリフが少ない。
あげく人間ドラマがほとんど描かれず、重要な登場人物でも名無しというそっけなさ。
主人公さえ、怪我人を利用してまで遮二無二生き残ろうとするその行動原理の源が描かれず最後まで謎に包まれた人物です。
じゃあドラマの乏しい薄っぺらな映画かと思いきや、全くもってそうでないのが本作の凄いところ。
ドラマが無いのは敢えてのことで、実は余計なものを削ぎ落して戦場のみを一直線に表現するというメソッドだと最後まで観ると分かります。
DUNKIRK
なのでとにかく戦場以外は画面に出てきません。
故郷に置いてきた恋人との思ひでシーンは無し。過酷な訓練シーンなども無し。反戦メッセージも風刺も一切無し。
ひたすら戦場だけが描かれます。
超シンプル。
超研ぎ澄まされてる。

時間が怖い!

思えばノーランはずっと時間をテーマに映画を撮ってきました。
『メメント』では時間逆行。
『インセプション』では時間加速。
『インターステラー』ではウラシマ効果。
インターステラー(字幕版)
一方、本作『ダンケルク』では上の作品のようなSF要素が無い代わりに
「陸 1週間」
「海 1日」
「空 1時間」
という三つの異なる尺度を持つ物語を敢えて並行して描いています。とても彼らしいですね。
1週間の話と1時間の話を巧みにシンクロさせながら同時に展開させるなんて、この発想の豊かさがもう本当にノーラン過ぎて脱帽です。
そして本作ではこの時間猛烈に怖い

「防波堤編」ではグズグズしてたらドイツ軍がなだれ込んできて皆殺しにされてしまう!しかし救助は一行に到着せず、自力で助かろうとあらゆる手を試すもことごとく失敗する。あ~このままだとみんな死んじゃうよ~!という緊迫感が時間の経過とともにどんどん強烈になってきます。
「海編」では同胞を救いに戦場へ向かうも時間が経つにつれどんどん不吉な事態が起きまくるというスリルが突き付けられます。
「空編」では被弾によって計器が壊れて戦闘機の残り燃料が分からなくなってしまい、早く引き返さないと墜落して死ぬけど今引き返すと目の前の味方が死ぬ、さらに迷っている間にもどんどん時間は過ぎるという究極のサスペンスが展開します。

そんな恐怖を「チクタクチクタク」という秒針の音が徐々に速く大きくなっていくBGMがさらに煽り立てます。音楽担当のハンス・ジマー御大、本作でも変わらずベストな仕事ぶりを発揮していますね。

広告



しかし一縷のマッドマックス感

そんなわけで、純粋に戦場だけを描くために個々人の活躍シーンなどは極力避けられている本作『ダンケルク』ですが、唯一の例外があります。
トム・ハーディです。

スピットファイア戦闘機に乗るパイロットとして登場する彼ですが、控えめに言ってもう滅茶苦茶カッコイイ!!
本作におけるヒロイック要素を独り占めにしており、抜群においしい役どころです。
上でも触れた、残り燃料量が分からなくなり空飛ぶ棺桶状態になった戦闘機で戦うのが彼です。しかし逡巡の果てに結局我が身を犠牲にして死地に赴く姿はほとんどマッドマックス
本物の戦闘機飛ばして撮ったという空戦シーンは、輝く海面の美しさもあいまってとんでもない迫力です。
プチネタバレになってしまいますが、燃料が切れて滑空しているだけになってもなお戦い続けてメッサーシュミットを一機墜とすシーンは猛烈に泣けました。男気溢れ過ぎる。
ドラマ性を排しひたすら戦場という時間を描くのに邁進した本作だからこそ、トム・ハーディの英雄的行為だけがアクセントとして凄まじい存在感を放ちます。この輸血袋が

是非IMAXで!

ダンケルク (ハーパーBOOKS)
これ観に行ったとき映画館が凄く混んでて「うわダンケルク超人気だな!出遅れたな~」とか思ってたのですが、案内が始まると開演時間が被っていた『怪盗グルー』の方にほとんどの客が吸い込まれていき『ダンケルク』の方には私のほか熟年夫婦が二組くらい来ただけでした。

IMAXの広大な劇場にほんの数人がちょこんと座るだけ…モッタイナイ!もったいないおばけが大挙して押し寄せるくらいモッタイナイ!

くどくて恐縮ですが本作はIMAXで観るべきです!
迫る海面の恐怖は大画面でないと半減するだろうし、魚雷命中シーンの迫力やハンス・ジマーの超怖いBGMもIMAXの爆音でこそ真価を発揮するでしょう。
そもそも本作は大画面で観る前提で撮られてます。ノーランってば『ダークナイト』の頃からずっとIMAXに夢中だもんね。

他の映画だったらDVD化した後におふとんでシネマすればいいいじゃないって所ですが『ダンケルク』だけは敢えての劇場視聴激推しムービーです!

広告



-映画

© 2021 おふとんでシネマ