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『僕のミッシー』感想 軽いドタバタコメディと思いきや、アウトサイダーへの温かい眼差しが冴える秀作

Netflixで配信中の映画『僕のミッシー』を観ました。

Netflixオリジナルのコメディ映画と言えば『リディキュラス6』にしろ『ドゥオーバー!』にしろ、時間返して!( ;∀;)と叫びたくなるションボリ作品が多い印象。
であるからして本作『僕のミッシー』も、まあダメだろうな…くらいのつもりで家事の片手間に見始めたワケです。暇つぶしになればラッキーぐらいの心持ちで。
そしたらこれがまあ面白くて。
単純にコメディ作品として笑えるだけでなく、Netflixらしくコンテンポラリーな課題にも言及した秀作でした。

 

 

僕のミッシー

2020年 アメリカ
監督:タイラー・スピンデル
出演:デヴィッド・スペード、ローレン・ラプカス

 

 

評価 B

 

 

運命的に理想の女性と巡り合った気弱な銀行マンのティムは、ハワイでの社員旅行にその彼女を誘う。
しかしメールの送り違いから、旅行に来たのは理想の女性ではなく以前に出会い系でデートした最悪のイカレ女だった。
イカレ女のミッシーは、社員旅行の最中に次々とトラブルを巻き起こしていく…!

というお話です『僕のミッシー』。"人違い"はドタバタコメディの鉄板モチーフですよね。

 

で、このミッシーが実質的な主人公。
ミッシーがテンポよく繰り出すオゲレツギャグにはフツーに笑ってしまいます。飛行機内での乱気流手〇キには腹筋が痛くなりました(;^ω^)

 

イカレポンチぶりが火を噴くぜ!

 

なおこのキャラの性格、明らかに精神疾患をモデルにしています
具体的には

●やたらと性欲が奔放
●異常にエネルギッシュで常に周囲を巻き込む
●それで周りが迷惑してもお構いなし(迷惑だと気付いていない)
●平気で嘘をつく(本人は嘘だと思っていない)
●学習意欲が旺盛で様々な特技を持つ
そして
●気分の浮き沈みが激しく、沈んだときには自殺も考える

などの特徴です。
精神疾患…というか端的に言えば双極性障害の臨床的特徴にことごとく当てはまります。昔の定義で言うところの「躁うつ病」というやつです。
劇中ではミッシーが病気であるような、ましてや精神疾患への罹患を示唆するような描写はありません。でもこのハマリっぷりは間違いない。少なくとも双極性障害を意識したキャラ付けなのは確実だと思います。

 

双極性障害は難病です。
どの点が難しいって、本人のみならずその家族や友人の負担がデカイこと。
症状の程度や具体的内容は個人差を含め千差万別ですが、教科書通りの例示をするなら「浮気を繰り返す」「異様に気が大きくなって新車を何台も買う」「ムチャなプランで突然起業する」「そのくせある日ぷっつりパワーが切れ、布団から出てこなくなってしまう」…などなど。
決して珍しい病気でない点も含めて、現代社会において無視することのできない中々の"困り者"です。

 

そんな困り者の特徴をいかんなく発揮しまくるミッシーに、ティムを含んだあらゆる登場人物は散々振り回されることになります。現実の双極性障害患者の家族がけっこう大変な目に遭うのと同じように。

しかし映画の後半では、そんなティムの立場を相対化する方向へ論調がシフト。
やりたくもない出世競争に腐心し人生をすり減らしていくティム…。
一方で、何からも自由で好きなことを好きなときに好きなだけやるミッシー…。
果たしてティムが"正常"で、ミッシーが"イカレている"と誰に言えるのだろうか?

ミッシー自身もただの迷惑製造マシンではなく彼女なりのやり方で周囲に貢献しようとしていたことも明らかになっていき、彼女が本当に見た目通りのイカレポンチなのか分からなくなってきます。

 

もちろん双極性障害は病気です。本人を含め困っている人がいる以上、そこには治療的介入があるべきです。
しかし病気とまではいかなくても、ミッシーのように"ひとと違う者"=アウトサイダーに対し社会はどう接するべきか…『僕のミッシー』はそこに一つの主張を持ち込んでいるわけです。
すなわち、既存の"マトモさ"から外れているからって"イカレている"と定義しなくてもよいのではないかと。
社会や常識が完璧でないことは誰もが認めるところ。だったらそこから逸脱してしまった人に対して、それが善き人であるなら人々はもっと寛容になってもよいのではないかと。
そういう主張です。

 

ウォーリー (字幕版)

全然関係ない映画ながら、ピクサーの『WALL.E』を思い出しました。
あの映画にも、ゆがみ切った"正しい社会"を病棟から脱走したイカレ患者が粉砕するシーンがありました。痛快無比の名場面です。
『僕のミッシー』と同じ見解ですね。

 

まあ『僕のミッシー』は所詮おバカ映画なので?完成度が高い名作とは到底言えません。
サメをけしかけるのはやり過ぎだろ、人が死ぬところだったぞ!
とか
上司の催眠術を解いたらまた結婚生活が破綻しちゃうんじゃね?解決してないじゃん!
など
言いたいことは山ほどあります。

でも予想を良い意味で大幅に裏切ってくれたので、とっても楽しめました。ベネ!

 

そんなわけで『僕のミッシー』の感想は以上です。
あそういえばコメディ映画のお約束のカメオ出演も充実してましたね。
『LOST』の数字ポッチャリのホルヘ・ガルシアや、なにかとコメディに出たがるヴァニラ・アイスなど。

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