おすすめ度
■■■■■■□□□□ 6点
【あらすじ】
悪党軍団が自分たちの尻ぬぐいに奔走。
悪党軍団が自分たちの尻ぬぐいに奔走。
『ワンダーウーマン』が超高評価でうれしいな!
この機にDCコミック映画を振り返ってみようシリーズその④! 『スーサイドスクワッド』です。
マーベルコミックスの『アベンジャーズ』が大成功して以来、それに追い付け追い越せとばかりにバットマンら自社キャラのクロスオーバー企画を激押ししてきたDCコミックス。
しかしその第1弾『マン・オブ・スティール』は微妙に不評。
続く第2弾『バットマンvsスーパーマン』も興業的には成功を収めるも内容は賛否両論。
そんなわけでDCユニバース第3弾は絶対に絶対に失敗出来ないというまさに背水の陣だった訳ですが、二度あることは三度あると言うべきかやっぱり微妙な出来になってしまったのが本作『スーサイドスクワッド』です。
しかしただの失敗作と呼ぶにはあまりに魅力あふれる本作。Netflix配信開始を機に振り返ってみたいと思います。
目次
あらゆる面でアラだらけ
ガタガタの脚本
先に悪い点を挙げると、本作はとにかく脚本のつくりが甘いです。厳しく言えば支離滅裂です。
そもそも悪党どもを起用して軍隊を組織する意味が分からない。
『特攻大作戦』みたいに囚人を最初から全員捨て駒にするつもりで実現困難なミッションへ放り出すと言うならばまだ分かりますが、本作と来たらまだ何も起きていないのにとりあえず感覚で悪人を招集。案の定手が付けられなくなって暴走したのを多大な犠牲を払って止めに行くという徒労感溢れるストーリーです。
なんのことはない2時間半かけて自らの尻拭いしているだけ。う~んこの無能感…。
なんのことはない2時間半かけて自らの尻拭いしているだけ。う~んこの無能感…。
加えて編集も不自然です。
例えば悪人軍団のメンバーの一人、エル・ディアブロはシーンによって全然性格が違う。
本作のアイコンキャラでもあるハーレイ・クインはすでに解除されている爆弾をそれ以降のシーンでも気にし続けている。
序盤の出来事の回想として結局全く同じシーンが劇中長々と2回再生され異様にテンポが悪い。
ほか多数。
いちいち揚げ足取るのも野暮と思えなくもないですが、1本の映画としてあまりに整合性に欠きます。
どうしてこうなった!?
迷走を重ねた製作
もともと監督のデヴィッド・エアーは本作をダークで暴力的な作風にしたかったようです。
しかしワーナーが市場の手ごたえを調査したところ、どうやらダークさよりも極彩色豊かな派手ポップさが求められていることが判明。よせばいいのに製作期間終盤で急遽路線変更の運びとなります。
しかしほぼダーク路線で出来上がっている映画をいかに追加撮影・編集したところでカラフルになるわけもなし。結果、予告編は毒々しいほどカラフルなのに対し本編は全編ずっと暗い画面という矛盾を生み出しました。「ショットガンのようにバットを構えるハーレイ」も予告編では印象的だったのに本編ではカットされてしまいました。
史上最も不遇なジョーカー
ㇾトは究極の狂人であるジョーカーを演じるために実生活でも狂人になり切り、キャスト仲間に自分の精液やら豚の死骸やらを送り付けドン引きされたりしました。あっぱれな役者魂ですが他所でやると普通に逮捕されるぞ。
しかしそこまで打ち込んだのに出番は7分くらい。本人もこの処遇に忸怩たる思いがあるとインタビューで名言しています。
しかしそこまで打ち込んだのに出番は7分くらい。本人もこの処遇に忸怩たる思いがあるとインタビューで名言しています。
船頭多くして船山に上る
前述のようにDCユニバースのフランチャイズ的に絶対に絶対に失敗できなかった本作。製作元から現場へ通常より強い圧力がかかったのは想像に難くありません。
しかしもともと映画製作には大勢の人間の思惑が絡み合うもの。色んな人が色んなことを言って方針が迷走するのはどんな映画でもあり得ることだし、逆にそういったカオスからこそ傑作が生まれ得る。『ボーン・アイデンティティー』とか。そう言う意味では状況を纏めきれなかったデヴィッド・エアー監督の力量不足は否めないと思います。
が、出来上がった映画を観てどうしても思わざるを得ないのは本作の足を引っ張った最後のピース、ウィル・スミスの存在です。
もともと主役はフラッグだった
ハーレイ・クインを別に置き、本作は当初リック・フラッグが主役だったようです。事実、当初予定されていたキャストは実際に採用されたジョエル・キナマンより遥かに知名度の高いスター、トム・ハーディでした。
フラッグは悪党どもをまとめる正規の軍人で唯一の常識人という役回りですが、それ以上に「さらわれた恋人を助け出すマッチョなイケメン」という言わば白馬の騎士。無理やり闘わされるほかの囚人と違って一番強力なモチベーションを持つ、まごうことなき主人公ポジションです。
しかし出来上がった映画ではちょっと喋るモブくらいの出番しかありません。いや、セリフはそこそこ多いのですが全く見せ場が無いためほとんど印象に残らないのです。
代わりに不自然なまでに出張っているキャラがいます。
デッドショットです。って言うかウィル・スミスです。
ハリウッドいちの俺様俳優
ウィル・スミスはハリウッドでも有数のギャラを誇るドル箱スター中のドル箱スター。トップスターゆえか彼の「オレ様」な性格にまつわるエピソードは枚挙に暇がありません。有名税の一面はあるでしょうが、まともな神経なら『アイ・アム・レジェンド』なんて言わないのも事実でしょう。
本作のデッドショットを見るに今回も「オレ様」が炸裂したことはもう間違いありません。
ウィル・スミスが大好きな「頑張っているパパ=オレ」描写に始まり、本来覆面キャラである筈なのに顔出し時間が99%以上と原作にノーリスペクト。
ストーリー上は部隊のいちメンバーに過ぎないのに、ウィル・スミス一人に割かれる尺と演出があからさまに過剰。それでいて本来主役ポジションのフラッグはモブ扱い。異様にバランスが悪く、映画全体の締まりの悪さに貢献しまくっています。
ウィル・スミスによる脚本への横槍が実際にあったことはシャイア・ラブーフがチクってますが、言われなくても完成した映画観れば分かるよ!
もともと切羽詰まった製作状況だった
+市場リサーチの不備から途中で路線変更を強いられた
+ウィル・スミスがやる気を出してしまった
+市場リサーチの不備から途中で路線変更を強いられた
+ウィル・スミスがやる気を出してしまった
『スーサイド・スクワッド』はかなりの難産だったのです。
しかし見どころ溢れる
本物のアウトロー上がり デヴィッド・エアー
本作の監督であるデヴィッド・エアー監督は、治安が悪いロサンゼルスでも特に危険地帯とされるサウスセントラル地区で少年時代を過ごしました。ここで育ったが最後、犯罪者になって撃たれて死ぬか警察官になって撃たれて死ぬか二択です。この地区に対する熱い思いは同監督作『エンド・オブ・ウォッチ』で傑作へと昇華されています。
しかし彼は軍人を経てどういう訳だか映画畑に入り、『トレーニング・デイ』の脚本で頭角を現したのちにハリウッド屈指のヒットメイカーへと転身を遂げます。
デヴィッド・エアーは言ってみれば、たたき上げの映画人であると同時に本物の元アウトローなのです。
ふつうに憧れて何が悪い!
そんな彼だからこそ本作の「悪人」の描き方には独特のこだわりがあります。
詳しく書くとネタを割ってしまいますが、あるシーンでハーレイ・クインが実はふつうの生活に憧れていたことが判明します。ふつうもふつう、実はごく退屈な専業主婦になりたかった。
このくだりはファンの間で非難轟々でした。スーパーヴィランは一般人を超越してこそのスーパーヴィラン。その筆頭であるところのハーレイが極めて前時代的な「およめさん」を夢見ているとは何事ぞ!?というわけです。
正直その通りだと思いました。私自身、初見時はこのシーンでズッコケました。
しかし本作がデヴィッド・エアー監督作品であることを考慮すれば別の見方も出来ます。
文字に起こすと陳腐ですが、つまり「ふつうが一番幸せ」ということです。
われわれ一般人からしてみればふつうであることこそ退屈で、悪であることが超越です。
しかしハーレイは別に悪=ヴィランになりたくてなった訳ではありません。その時その時の欲望に忠実に生きていたら結果としてヴィランになったというだけ。そんな風にしか生きられなかっただけなのです。その自覚はエル・ディアブロに「背負いなさいよ!」とタンカ切るシーンではっきり顕在化します。彼女にとってはふつうこそが超越なのです。
この価値観の裏返りに初見時は思い至らず「ハーレイって根は退屈な女なんだな」とか思ってました。サウスセントラル仕込みのデヴィッド・エアー監督にとって、ふつうで退屈な人生こそ欲しても手に入らないという真理は切実なのです。
ハーレイ・クインは大変なものを盗んでいきました
私の心です。
かわいい!
他の映画で見たときはあんまり魅力的に思えなかったマーゴット・ロビーですが、本作での輝きっぷりは尋常じゃありません。本作観る価値の実に99%を占めます。
『スーサイドスクワッド』自体の不評ぶりにも関わらずアカデミー賞メイクアップ賞をマジで受賞してしまったことからも彼女の真に迫る魅力が裏付けられます。もう本当にかわいい!かわいい!強い!
ショーウィンドーを叩き割りハンドバックを勝手に頂戴するシーンで、拾い上げる尻姿勢の美しいこと!
彼女メインで続編の企画が持ち上がっているというのもむべなるかな。
Netflixならハーレイ・クインの尻が見放題!です!