映画

真綿で締め付けられるような恐怖を存分に味わえる『不吉な招待状/インビテーション』 ※ネタバレあり

おすすめ度
■■■■■■■■□□  8点
【あらすじ】
ウィル(ローガン・マーシャル・グリーン)はかつての妻エデン(タミー・ブランチャード)が企画した夕食会に招待される。ウィルとエデンには幼い息子がいたが事故で命を落としており、それが元で二人は離婚していたのだ。
旧友たちが集まりささやかな夕食会が始まるが・・・
「旧友たちに混じって見知らぬ激痩せ女性がいる」
「来るはずの客の一人が連絡もないまま姿を見せない」
「子どもを失って一時正気を失っていた元妻が異様に元気」
など、一つ一つは決定的ではないにしろ不穏さと不吉さが拭い切れない。
誰かが何かを企んでいるのか?それとも正気を失っているのはウィルの方なのか?

何かが起きそうで起きない恐怖

絵的に派手なシーンは無いのに100分間観る者に凄まじいストレスを与え続ける強烈な映画です。怪作と言っていいでしょう。
とにかく何か起きそうで起きない。どっちに向かって話が進んでいるのかまったく分からない。

普通に考えれば元妻が何かしでかしそうです。見るからに。
しかし主人公のウィルも、夕食会に来るまでの途中で誤って車で撥ねたコヨーテを躊躇なくスパナで殴ってトドメを刺していたり、勝手に元妻の寝室に入って引き出しをあさったり怪しさ満点。
かと思えば元妻の今の夫であるデヴィッドが「ちょっとみんなに見てもらいたいものがあるんだ」と言ってドン引きアイテムを突然披露したり、もう何が何だかとにかく不吉
しかし何も起きません
これがものすごいストレス。身もだえするほど居心地が悪いです。実際このパーティーに参加していたら5秒で帰ること請け合い。
で、このまま寸止めプレイを引き延ばしたまま映画終わるのかと思いきや・・・。
・・・!
『イングロリアス・バスターズ』の地下室でミヒャエル・ファスベンダーと延々話すシーン。アレを思いっきり陰気にして一本の映画にしてみた感じです。
スリラーとしての完成度はかなり高いです。『隠された記憶』みたいな不穏な空気感が好きな方に是非おすすめ!
以下は結末にも触れたネタバレ感想です。ネタバレせずに観た方が確実により身悶えできるので未見の方は閲覧注意。
 

※ ネタバレ警告※ 
以下の記事にて作品の結末に触れています!未見の方は注意!

ついに「何か」が起きてしまう

あまりの居心地の悪さから
「元妻やその現夫のデヴ
ィッドは正気じゃない!妙なカルト集団に洗脳されて今日の招待客を皆殺しにしようとしているんだ!!」という突飛な妄想に憑りつかれたウィル。
突然怒鳴り散らしながら暴れだし、そのはずみで女性を突き飛ばして頭に怪我を負わせてしまいます。息はあるけどぐったりして動かない女性。
ウィルは「そんなつもりじゃ・・・」と狼狽。そんな彼に注がれる非難の視線。
流血沙汰になったパーティは騒然とします。

が、その混乱のなか、なんとデヴィッドがおもむろにパーティーの招待客を順番に銃で撃ち殺しはじめました。実は元妻もデヴィッドも、死後の世界に究極の幸せがあると信じて疑わないカルト集団「インビテーション」の信者で、今日の招待客全員に「安らぎ」を与えるというハードなおもてなしをたくらんでいたのでした。
ウィルが暴れて計画が狂ったので全員力づくで始末するという強硬手段に切り替えたのです。ウィルの妄想じゃなかった訳です。

ミスリーディングの妙

ここが上手です。
直前までは、大声をあげてみんなを嫌な気持ちにさせ、女性に怪我まで負わせるウィルの方が正気を失っているように見えます。が、その5秒後には正気側かと思われたデヴィッドによるまさかの大虐殺シークエンス開始。
このどんでん返しが見事です。散々何か起きそうで起きないという寸止めを繰り返してきたのに、いざ事が始まったらもう止まらない。急転直下の地獄絵図です。

後味悪い映画ファン垂涎

何とか反撃しデヴィッドを返り討ちにするウィル(と数名生き残った招待客)。
元妻も一度はウィルを殺そうと銃を向けますが、結局自分を撃ちます
息子が死んだ事実を結局受け入れられなかったこと、本当はその事実から逃げているだけだったということを告白し、ウィルに謝りながら死んでいくのでした。とても哀れで救いが無い・・・。

しかも普通ピストルで自害するなら頭を撃つだろうに、敢えて下腹部=子宮を撃っています。息子の死という現実から逃れ切れなかった苦しみがこの一点だけで饒舌に語られます。「エデン」という名前からはかけ離れた無残な最期。あ、後味悪い・・・。

すべてが終わったと思いきや、ふと街の方へ目をやると遠くに見える家々の軒先に「インビテーション」の信者の証である赤いランタンが。

街中に鳴り響く銃声。悲鳴。サイレン。
この世の終わりがやってきたのです。
というところで映画は終わります。
ほんとに後味悪い!

何が後味悪いって、せっかく原題である『the invitaion』が「招待状」と「カルト集団の名前」を引っ掛けてたのに、『不吉な招待状』という邦題にしたせいでダブルミーニングが失われているところ!・・・そこ!?
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