■■■■■■■■■□ 9点
【あらすじ】
元軍人にして生物学者のレナの前に、行方不明だった夫が突如現れる。しかし夫は明らかに様子がおかしい…彼の身に何が起こったのか?
真実を確かめるため、レナは「シマー」と呼ばれる謎の超常現象の調査に向かう。
Netflix独占配信映画『アナイアレイション -全滅領域-』を観ました。
いきなりですがSF映画史に新たな傑作誕生です。
近頃『クローバーフィールド パラドックス』しかり『ミュート/MUTE』しかり、期待作がもうことごとくガッカリだったNetflixオリジナル映画ですが、ここに来て素晴らしい作品を輩出しました。もう解約しようかな…とよぎる頃にこういう傑作をブッ放すからNetflixは油断ならねえ!
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『エクス・マキナ』の衝撃ふたたび
その『エクス・マキナ』がまずもって大傑作でしたね。笑いと恐怖と知的さとおっぱいが渾然一体となったよくばりSF。あらすじだけ追うと「自我に目覚めたAIが人間におイタをする」というそれこそ『2001年宇宙の旅』の頃から繰り返し描かれている平凡なシロモノなのに、その独創的な演出ゆえに大変個性的かつ先鋭的な仕上がりでした。アカデミー賞脚本賞ノミネートもむべなるかな。
そんなこんなで本作『アナイアレイション -全滅領域-』は『エクス・マキナ』によく似た雰囲気。静謐な演出と幾何学的ビジュアルイメージが大変印象的です。さながら姉妹作。「シマー」内の異様な美しさは実に4K画質映えします。
ただし今回はかなりホラー映画寄りです。しかもお化けがバァーッと出て来て驚かせる系ではなく、自分自身の存在が脆くも崩れていくかのような不安を覚えさせる精神的な恐怖です。
と見せかけて実はゴア描写も入念で、生きたまま人間の内臓を引きずり出したり怪力で顔面がぶっ壊れたりなどサービス豊富です。アッパレ!
キャストも豪華
本作はナタリー・ポートマンことナタポー主演と言うことで画面の映えも豊かです。やっぱトップスターは輝きが違うね!
そしてナタポーの夫を不気味に演じるのが『エクス・マキナ』から続投のオスカー・アイザック。これはスターウォーズ的にはアミダラ女王とポー・ダメロンの共演ですね!うわー疎遠なキャラ同士!
そしてナタポーと一緒にSF地獄めぐりをするハメになる隊員たちも『ヘイトフルエイト』の最強ビッチことジェニファー・ジェイソン・リーだったり『マイティ・ソー バトルロイヤル』のバルキリー役が記憶に新しいテッサ・トンプソンだったりと存在感ありまくり。
※ ネタバレ警告※
以下の記事にて作品の結末に触れています!未見の方は注意!
進めば進むほど正気を失う
先遣隊がことごとく全滅したという超危険な謎領域「シマー」の調査に乗り出すナタポー探検隊。
案の定シマーの内部で異形の進化を遂げたワニやらクマやらに襲われ散々な目に遭います。しかも前回の探検隊(全滅済)が残したビデオを見ると仲間同士で腹を掻っさばいてたり、それで出てきた内臓がウネウネ動いてたりで悪夢的な有様。メンバーの士気はガタ落ちです。
更に奥地では人間の形に自然に成長した樹木や、人間の悲鳴を上げながら襲ってくる猛獣なども出現。そして探検隊のメンバー自身も心身ともに何か別のものに変貌していきます。
この「進めば進むほど従来の常識が通用しない異様さが増す」感覚がとっても素敵。単純に言えば怖いです。次は何が出てくるのかこっちはもう見たくないのに、ナタポーは突き動かされるようにどんどん真実に迫っていくという訳です。
どうやらシマーの内部では、植物だろうが人間だろうがその構成要素が相互に混じり合うようです。しかもDNAや細胞だけでなく感情や記憶、知性までとにかく全てです。
全滅した先遣隊はシマーによって「別のもの」に作り変えられていたのでした。
私は私であるという認識さえ奪う
「人間が別のものにすげ変わる」というモチーフはそれこそ『遊星からの物体X』や『ボディスナッチャー』など往年の傑作が繰り返し描いてきたネタです。しかしそれらが揃って「家族や友人が知らない間に別人に変貌していたら?」という着眼点だったのに対し、本作『アナイアレイション -全滅領域-』で変貌するのはまごうことなき自分。
自分が自分であるという絶対不動の前提を生物学的な説得力で破壊しに来るシマーは独特かつ強烈な恐怖をもたらします。
しかもシマーの正体は最後まで明かされません。
宇宙から飛来した何かであることは確かですが、それがいわゆるエイリアンなのかそれとも一種の現象なのか…それすら判然としません。規格外過ぎて最初から人間に理解できるものではないと言った雰囲気です。おそらく目的さえ無い。それがまた怖い。
不吉なラスト
機転を利かせてシマーから脱出し生還したレナ。
レナの前に現れた夫の正体はシマーが「模倣」して誕生した擬態人間だったというオチですが、それを理解しつつレナは夫を抱きしめます。変化を受け容れたのです。そして、そんなレナの瞳もまた異様な色に染まっていくのでした…。
レナはどこかの段階で人間以外のものに作り変えられていたのか。それとも彼女は最初から「レナの姿をした別の何か」なのか。
真実はぼやかされたまま映画は終わりますが、いずれにせよ既に変化は始まっており、もはや誰にも止められないという事実なのでした。
レナはどこかの段階で人間以外のものに作り変えられていたのか。それとも彼女は最初から「レナの姿をした別の何か」なのか。
真実はぼやかされたまま映画は終わりますが、いずれにせよ既に変化は始まっており、もはや誰にも止められないという事実なのでした。
と言う訳で人類全滅フラグを予感させる不吉なエンディング。この雰囲気も『エクス・マキナ』に似ており、アレックス・ガーランドが監督2作目にして早くも作家性を確立している様子が伺えます。
超危険だと分かっている場所に軽装の非戦闘員だけでノコノコ向かうのは一体どういう了見やねん!
オスカー・アイザックが死にかけてたのは何の意味があったんだよ!
などなど細かいツッコミ所が豊富なのは否めませんが、溢れるビジュアルセンスで全て許す気になってしまいます。「コップの水を通して見える手」の不穏さとか超上手いですよね。
自分って何?というコギト命題的な哲学要素も内包しており、繰り返し観る価値のある深くて怖い傑作だと思います。