映画

『ビースト オブ ノーネーション』感想 少年兵たちの末路に思いを馳せる









■□ 9点
2005年
監督:キャリー・フクナガ
出演:エイブラハム・アッター、イドリス・エルバ
【あらすじ】
アフリカのどこかの国、どこかの村。少年アグーは家族と共にのどかで楽しい日々を送っていた。
しかしある日突然、村は政府軍による略奪に遭いアグーは目の前で家族を惨殺される。ひとり生き残ったアグーはあてどなくジャングルをさまよい、成り行きで革命軍に参加することに。
そして革命軍指揮官との出会いがアグーをけだものへと変えていくのだった。
胸に深々と突き刺さる印象深い作品でした。
本作は公開されるや絶賛を集め、Netflixによるインターネット配信映画ながらヴェネチア映画祭金獅子賞ノミネートをはじめ輝かしい受賞歴を獲得しています。何年か後には映画の歴史のターニングポイントになった作品として語り継がれているかも知れませんね。

『ブラッド・ダイヤモンド』に似るが

それはさておき。
本作ではただの少年がいっぱしの殺人マシーンに変貌する様子が克明に描かれています。このテーマはレオナルド・ディカプリオ主演の2006年の名作『ブラッド・ダイヤモンド』と共通しており、実際「臨死体験でこれまでの価値観を破壊する」「薬物で物理的に洗脳する」「音楽で高揚させる」などの手口の描写が大部分一致します。
どちらも実際の少年兵の錬成を研究して製作したということでしょう。たぶん。

ブラッド・ダイヤモンド (字幕版)
ただし本作が『ブラッド・ダイヤモンド』と異なるのは、ハリウッド映画のお作法に則っていないことです。
ディカプリオのような画面映えするヒーローは出てこないし、悪役が悪役らしく無残に死ぬシーンもありません。洗脳された少年兵が家族の呼びかけで正気を取り戻す感動的なシーンも無しです(『ブラッド・ダイヤモンド』自体は素晴らしい映画だよディスってないよ!
)。
実際の国名すら出てこないので社会派メッセージもありません。そういう意味では反戦映画ですらありません。
ただひたすらに少年アグーの肉体を通して戦争という人間の業を追体験するという構成になっています。結論を描かず解釈を観客にゆだねるラストシーンも印象的です。

キャリー・フクナガ節

本作を撮ったキャリー・フクナガは『トゥルー・ディテクティブ/二人の刑事』という超傑作刑事ドラマを手掛けた気鋭の天才監督。
『トゥルー・ディテクティブ』で特に印象的だったのは、主役の一人であるコール刑事のニヒルな名セリフの数々です。マシュー・マコノヒーの演技力もあいまって、コール刑事は口から出る言葉すべてが名セリフというインパクト絶大のキャラに仕上がっていました。

TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ <ファースト> ブルーレイセット(3枚組) [Blu-ray]

そんな「フクナガ節」とでも言うべき独特のセリフ回しは本作でも健在。
「この世に確かなものなどなく 何もかも変わっていく」
「神様見ていますか 僕らが何をしているかを」
「太陽よなぜこの世を照らす? 僕はこの手でお前を掴み その光をすべて絞り出してやりたい そうすればこの世は暗くなり ここで起きる悲惨な光景を誰も見ないで済むから」
↑こうやって書くと若干厨二ポエムっぽく見えてしまいますが、劇中でアグーの独白として綴られるとその静かで悲痛な叫びが観る者に深々と突き刺さります。

映像面においてもフクナガ節が炸裂


トゥルー・ディテクティブ/二人の刑事
』ではルイジアナ州の湿地帯が非常に美しく描かれていました。そのジメジメした気候や閉鎖的・排他的な風潮がとんでもない狂気を生むに至ったにも関わらず、風景そのものはとても綺麗です。その対比が、よりテーマを鮮明にするという仕掛けでした。

本作『ビーストオブノーネーション』でもジャングルの美しさは息を飲むほどです。そんなジャングルを背景に惨劇としか言いようのない血みどろの業が繰り返されていく。やはりここでも自然と人間の対比という構図が生きています。
演出も冴えわたっており、特に中盤のアグーによる村の虐殺&略奪シーン長回しは凄惨さも含め抜群のインパクトです。
また「無抵抗の人質を新兵に殺させるシーン」は戦争映画のお約束とも言えますが、本作では殺す側が子供なのでさらに鮮烈。殺される側の人体破壊描写も鮮明で、激痛が観る者に襲い掛かる珠玉のシーンに仕上がっています。
フクナガ監督、只者ではありません。

観るのがつらい!

自分に子供ができてから、映画を観るときの視点が主人公サイドから父親サイドに明らかに変わりました。
本作鑑賞中でもそれは如実でした。これがもう本当につらい!開始十数分だけ描かれるアグーと家族の平和で愉快な日々が、その後に過酷な運命がやって来ることが分かっているだけに胸を締め付ける!
さっきまで一緒に逃げていたアグーの兄が、振り返るともう死んでいるというシーンも強烈でした。しかも死にっぷりが「後頭部から入った弾丸が顔から出て顔面が消滅する」というありさま。人がモノに変わる瞬間の説明としては十分過ぎる説得力です。
アグー逃げて、逃げて生きてー(つд⊂)となって早々に号泣してしまいました。
キャリー・フクナガの演出が冴えているだけに、序盤の平和が中盤以降の地獄ぶりを引き立てます。あ~(つд⊂)
Netflix契約しているのならば絶対に観ておくべき、心に突き刺さる大傑作です。超おススメです!

-映画

© 2021 おふとんでシネマ