■■■■■■■■■■ 10点
【あらすじ】
殺された家族のカタキを討ち、死を装って表舞台から姿を消したパニッシャーことフランク・キャッスル。
半年後。しがない解体作業員として静かな生活を送っていたフランクだったが、復讐を終えた今も家族を失ったトラウマから逃れることはなかった。
そんな彼に凄腕ハッカーのデヴィッドが接触。デヴィッドと共通の相手によって人生を狂わされたことを知ったフランクは、一時的に彼と手を組み復讐を再開する。
全話観ました『Marvel/パニッシャー』!
凡作続きでブランドも何もあったもんじゃないNetflixマーベルシリーズですが、ここに来てまさかの大傑作誕生です。
アメコミヒーローものでありながら、非科学的な要素を一切排した純然たるハードボイルド復讐譚。展開がもたつくのはまあドラマだからある程度はしゃーないと割り切るならば『デアデビル』以来の快作だと思います。
ロッテントマトの支持率が61%(2017年11月現在)とかなり低いですが、知るか!超面白かったです!
目次
ファンタジー要素無し!大人の復讐ドラマ
そもそもNetflixマーベルユニバースは『アイアンマン』や『キャプテンアメリカ』などと世界観を共有しているのがウリの一つでした。
だから『デアデビル』の舞台は『アベンジャーズ』の一件で荒廃したニューヨークだったし、『ルーク・ケイジ』にもハマー社が(名前だけ)出てきます。
しかし本作『パニッシャー』ではその路線は一切排されており、逆に「911テロ」や「アフガニスタン」など現実に即した社会問題が大きなファクターとして登場します。
ウルトロンが一都市丸ごと宙に浮かせたり、ウィンター・ソルジャーが国連事務局を爆破したりする世界ではもはや911テロどころじゃない社会観になっているはずですが、敢えてそこには触れず現実の世界と地続きの価値観で主人公達は行動します。『ディフェンダーズ』までのファンタジー路線とは違うものを作ろう!という気概を感じますね。
意外と社会派
そしてこのリアル路線が大成功。
パニッシャーの悪・即・斬スタンスは是か非か、社会や法律を交えて真っ向から描いており大変骨太な雰囲気に仕上がっております。いや、是か非かで問えば確実に非なのは間違いなく、劇中でも彼は英雄としては決して描かれないのですが、本当にその姿勢ですべてが解決するのかと観客に問うてくる訳です。
銃愛好家でいかにもトランプ支持者っぽい白人男性をどうしようもないバカ者として描く一方で、銃規制派の国会議員を口先だけの臆病者として描いたり、社会に居場所の無い中東からの帰還兵を同情的に描くかと思えば、戦争のトラウマから破滅的狂信者へと転落していく人間も出てきたり…。
登場人物はいずれも現実のアメリカを悩ます各種の問題を反映したキャラ付けになっています。
人々が銃という暴力を手にすることで誕生したアメリカという国がそのアイデンティティーに200年間縋った結果、大衆・軍隊・政府(CIA)がそれぞれ大きな問題を抱えるようになり、それが巡り巡ってパニッシャーという究極の暴力を生み出すに至った…という社会的背景が克明に表現されています。
シブいですね。社会派ですね。
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※ ネタバレ警告※
以下の記事にて作品の結末に触れています!未見の方は注意!
全員キャラ立ちまくり!濃すぎる登場人物たち
フランク・キャッスル
本作はもうジョン・バーンサルの一人勝ち!と言いたいのですが構いませんねッ!?彼の野性的な迫力無くしては本作の成功はあり得なかったでしょう。
特にバトル中に発する「うおおお―――ッ!!!」という独特の雄たけびがインパクト絶大。パニッシャーはスマートな処刑人などでは決してなく、暴力の権化であるという本質が力強く表現されています。
追い詰められて観念した悪役が自害しようとするのはアクション映画のお約束ですが、それを止もせず逆に「そうだ行け!やれ!死ね!」と煽る主人公は、少なくともアメコミ界隈では彼だけでしょう。
斃したザコの頭部を切断して爆弾として再利用するなど、マットやジェシカが見たらドン引き間違いなしの残虐ファイトが堪能できました。
フランクにとって何が「家」なのか血みどろの暴力描写で明かされる第12話はもう、本当に何もかもが素晴らしくてただただ涙でした!
↑歴代パニッシャーの比較記事が面白かったです!
ビリー・ルッソ
ナルニア国物語の王子が大人になって新登場。
ルッソと言えば過去の映画版にも登場したパニッシャーの宿敵「ジグソウ」の本名なので、敵に回るのは最初から分かっていた訳ですが…。
本作のルッソはフランクとは何度も一緒に死線を越えた戦友同士で、なおかつ優しくて金持ちでイケメン。完璧じゃん!ぜんぜん悪役要素無いじゃん!
そんなルッソがいかにしてフランクの宿敵に変貌するのか、どんな驚愕の展開が待っているのか…!ハラハラしながら見守りましたが何のことはない最初から冷酷な悪党でした。良い人はただの仮面でしたとさ。
好人物が色々あってヴィラン化する『ダークナイト』のハーヴィー・デント的な展開を期待していたので、そのまんまやんけ!と言いたくなるヒネリの無さでしょんぼり…orz
ただ、幼少期にドラッグ中毒の母親に捨てられたというトラウマを激しい上昇志向で埋めようとしている、という設定には説得力があり悪くありませんでした。自分がのし上がるためには何でも利用してやる、軍も!政府も!親友も!!という一本筋の通ったサイコパスぶりは暴風のようなパニッシャーとは好対照のシャープさです。
あと手首から刃物が飛び出すアサシンブレードがかっこよかったです。
『アサシンクリード オリジン』欲しいねえ(全然関係ない文章)。
デヴィッド・㍃・リーバーマン
実戦担当のパニッシャーに対し情報戦担当として狡猾に立ち回るマイクロ。
既に守るべき存在を失ってしまったフランクがデヴィッドの家族を「今度こそ守る!」と信念を燃やす姿にグッと来ました。
あと原作キャラと微妙に名前が違うけどなんでじゃろ…誰か知ってたら教えて!
カレン・ペイジ
『デアデビル』『ディフェンダーズ』と修羅場を潜りまくったおかげで、熱血敏腕ジャーナリストに成長しました。あたしったらフィスクの部下を射殺しちゃったどうしましょう、とオロオロしていた頃のペイジとはもはや別人ですね。
彼女がほぼ主役だった第10話『野蛮な美徳』は、殺人事件の顛末が目撃者の証言で全然食い違うというバイオレンス羅生門的な演出もあいまって神回でした。
今後の『デアデビル』シリーズでも重要な役どころなのは間違いありませんね!
デイナ・マダニ
「マダニ」という日本語的には悪口スレスレの語感が印象的な戦うヒロイン。
国土安全保障省のエリート捜査官として、移民の出自でありながらアメリカの秩序を守るために人生を懸けるという信念が実に熱い!ここでも「アメリカの今日」を切り取った設定が活かされています。
二度も相棒を惨殺され復讐に焦がれていきながら、政治的な駆け引きをも駆使して社会的制裁にこだわる姿はパニッシャーとは対照的。でもマダニ、あなたのウソ作戦のせいで死んだサム以外の捜査官のこともたまには思い出してあげてください。
パニッシャー 今後の展望
本作の何が一番素晴らしいって、終わり方が良いことです!
海外ドラマがシーズンの末で「つづく!」的終わり方をするのは(悪しき)伝統芸能みたいなものですが、本作はもうスパっと有終の美を飾っています。そこがいい!
ルッソは晴れて顔がジグソーパズルみたいになって廃人化したし、デヴィッドは家族のもとに帰っていきました(そしてフランクと会うことは恐らくもうない)。
フランクが「本当は自分が何者か認めるのが怖いんだ」と朴訥に語るラストでは彼の戦いは終わったことが示唆されています。
パニッシャーに対する政府の処置が寛大過ぎてそれでいいのか!と言いたくなりますが、まあそこも含めて綺麗さっぱり終わっていると言えるでしょう。『デアデビル シーズン3』にフランクが登場することはなさそうです。
ルッソが怪人「ジグソウ」として復活して大暴れ、それを止めるためにフランクが再び立ち上がる!みたいな話はやろうと思えばなんぼでも出来そうですが、もうそういうのはいいんじゃないかなと思えるほど一つの物語として完結しています。
何にせよ最高でした!