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『オルタード・カーボン』05~10話(最終話)感想 SF世界で王道ハードボイルド! ※ネタバレ注意








■□
□ 8点
【あらすじ】
人間の意識をデータ化し「スリーブ」と呼ばれる肉体に次々入れ替えることで人間が半永久的に生きられるようになった近未来。
大富豪の殺人事件を捜査をする男は巨大な陰謀に巻き込まれていく。



全話観ました『オルタード・カーボン』!
直球のサイバーパンクSFを舞台に正統派ハードボイルドが展開する力作でした。ジョエル・キナマンの好演もあり大変面白かったです。
ただ固有名詞が山ほどでてくる独特の近未来観に中々入り入れず残念。原作未読なのである程度はしょうがないのか…(ノд・。) 
と言う訳で今回はネタバレ全開で『オルタード・カーボン』について語りたいと思います。未見の方は注意!




本作にはレプリカント的な「機械以上人間未満」的な存在は登場しません。しかし人間の魂を構成するのは何かというテーマが通底しており、そういう意味では非常に『ブレードランナー』に近い雰囲気です。ビジュアルが似るのは必然と言えるでしょう。
そして義体(=スリーヴ)の扱いがストーリー展開とも直結する点は『攻殻機動隊』にそっくりです。ONIという『攻殻機動隊』の電脳とほぼイコールのガジェットも登場するのでますます似てます。

サイバーパンクの大傑作たちから多大な影響を受けているので、設定は斬新ながらある意味どこか親しみのある「ああ、アレね」的な安心感を覚えます。

ゴースト・イン・ザ・シェル (吹替版)
そのうえでストーリーの根幹は王道ハードボイルド。傷つきながら真相に迫っていく主人公の姿はまさしく古き良き探偵です。フィリップ・マーロウがイメージ的に近いかも。
SFとして深遠なテーマを扱いつつ、映像はリッチな近未来もの。そして事件を追う主人公の戦いと推理。斬新さと王道が融合して高いエンターテイメント性が実現されています。
なかなか凄いぞ『オルタード・カーボン』!

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ツッコミ所が没入感を阻む

しかし一方で色々難があるのも事実…。
全体的に話の展開がトロく、謎解きが終盤に集中しているので途中「え?どゆこと?」となるシーンが多いのも観ていて疲れます。
そして主人公が敵の手に落ちる展開が多過ぎてまたかよ感が凄い。いくらハードボイルドのお約束とは言え1話に1回ぐらいのペースでピンチに陥るのは捕まり過ぎだろ!。

250年前の常識が通用するの!?

それに色々なツッコミが次々浮かんでどうにも没入出来ませんでした。
まず主人公コヴァッチの設定です。
彼は250年に及ぶ保管刑を経て現在に目覚め、大富豪に依頼されて殺人事件の捜査を開始します。しかし250年前と言えば平成から起算すると江戸時代中期に当たります。松尾芭蕉がウロウロしていた頃の岡っ引きを現代に蘇らせ殺人事件を任せるようなものです。無理じゃろ。


なのにコヴァッチは特に違和感を覚えるでもなく、概ね平然と250年後の社会に馴染んでいきます。文明の発達が遅すぎない!?警察機構とか250年前と同じ仕組みでやってんの!?
これに対しては
「エンヴォイだから適応力半端ないんだよ!」
「文明が爛熟し過ぎて科学の発展が停滞してるんだよ!」
「真の富裕層は外宇宙で暮らしているので、この時代に地球に残っているのはメトも含めて遅れた野蛮人ばっかりなんだよ!」
など好意的に深読みすることも出来ますが…そうならそうでちゃんと説明して欲しい所です。
おかげで200年だの300年だのの設定が無意味化しています(´・ω・`)ショボーン


オルテガ警部補に魅力なさすぎ問題

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執拗にコヴァッチを追跡する女性警官オルテガ。その理由は大富豪バンクロフトに関わる何らかの犯罪の匂いをコヴァッチに感じていたからでした。

あんまり美人じゃない上やたらと横柄で魅力の乏しい彼女ですが、そこまで執念深くコヴァッチを追うなんて警官としてのプライドは一流なんだな~、偉い(`・д・´)ビシッ!と思わんでもないでした。


が、話が進むと別の事実が発覚。
なんとコヴァッチが現在使っている肉体(=スリーヴ)はオルテガの恋人のものでした。オルテガがコヴァッチにこだわるのは、かつての恋人の大胸筋を大事にしたいからという乙女チック100%な私情だったのです。ってなんじゃそりゃ!法の番人としてのプライドじゃなかったんか~い(;^ω^)!!
そして案の定、彼女の執着が遠因で様々な事件が発生。結果的に警官が複数名死傷し同僚も彼女をかばって死にました。疫病神かよ!


さらに受け入れられないのがコヴァッチが彼女と恋に落ちてしまうという展開。どこに惚れたのかさっぱり分からないよ!
ここは本来だったら「個人を定義するのは肉体か意識か」「オルテガが愛しているのはライカ―かコヴァッチか」という本作のテーマの核となる重要なエピソードの筈ですが、オルテガの描かれ方がウンコ過ぎてコヴァッチの女の趣味が悪いだけにしか見えません。致命的です。

オルテガの母親も強烈で、嫌なことがあるとすぐに人に向けて実弾を発砲したり殴りかかったりする無茶苦茶な人格。この娘にしてこの母親ありって感じで大変ウザい。


はっきり言ってオルテガの存在が作品の格を貶めています
こんなことなら大人しくマッシュやガイアと一緒にジェットストリームアタックでもしていて欲しかった…(つд⊂)


使われない伏線の数々

ただでさえ色んな設定を理解する必要がある本作なのに、使われない伏線が多いのも勘弁して欲しかったです。
魔法の縄文杉「ソングスパイア」…あれ結局なんだったの?
人類はすでに外宇宙に進出している的な設定は必要だったの?
超古代文明は?
もっと情報の要点を押さえて、話数を絞ってテンポよくストーリーを伝えて欲しかったです…(TДT)

複雑だが緻密な真相

と先にクサしてしまいましたが、全体として面白かったのは間違いありません。
何といってもストーリーの構成が抜群に良い!数々の事件が主人公を中心に一つに繋がっていく終盤は物凄いカタルシスでした。展開のテンポこそ前述通り今一つでしたが構成力は圧倒的です。
自分の理解を確かめる意味でもかいつまんで真相を追うと

1.コヴァッチの妹レイリーン、数百年かけて超富裕層に君臨。

2.レイリーンの主収入源は超富裕層向けの「殺してオッケーの娼婦」。この商売を隠蔽するために宗教コード書き換えなどの悪事を更に働いていた。

3.レイリーン、バンクロフトの妻ミリアムの弱み(リジー殺し)をゲット。ミリアムを操ってバンクロフトに興奮剤を盛る。

4.理性のタガが外れたバンクロフト、興奮のあまり娼婦をリアルデスで殺す。(このとき娼婦メアリーも死に、彼女の死を執拗に追う刑事ライカーも口封じのため無実の罪で投獄)

5.正気に戻ったバンクロフト、殺人の記憶を隠蔽するために自殺。

6.バックアップから復活したバンクロフトは自分が誰かに殺されたと思い込み、腕利きの探偵を探し始める。

7.レイリーン、バンクロフトを巧みに操って探偵役としてコヴァッチを復活させるよう仕向ける(レイリーンの最終目的はコレ)。

8.コヴァッチ、ライカーの肉体を借り現世に復活。事件の捜査を依頼される。

9.コヴァッチ、すったもんだで1~8の真相を突き止め世間に公表する。

10.(゚д゚)ウマー

…こんな感じでしょうか。改めて構成の立体感に驚かされます。

死への存在

限りある命だからこそ人間は素晴らしい!…とはまあ手垢のついたテーマですが、本作『オルタード・カーボン』ではそこから一歩踏み込んで「人間が長生きし過ぎると貧富の格差が拡大し続けて人類全体が衰退する」という社会学的なアプローチで説得力を展開しているのが冴えています。劇中のクウェルのセリフでこの主張を示しつつ、同時に250年後本当にそうなってしまった社会を描き出すというのも凝った構図ですね。

クライマックスでは愛する者を復活させるチャンスを捨てて宿敵と刺し違えることを選んだコヴァッチ。結局死に損なった彼ですが、「彼女」を探す旅はむしろ始まったばかりのようです。
この終わり方も、重要なのは愛する者の生き死に自体ではなく愛を求めて足掻くことだ、それが人間性と言うものだという主張のようにも見えます。

原作では3部構成らしいコヴァッチシリーズ。ここでスパっと終わった方がメッセージは明確だと思いますが、面白かったのでがぜん続編に期待です!
でもコヴァッチはこの後別人のスリーブに入るんだよね。てことはまったく別の姿になるので、続編はジョエル・キナマン主演じゃない?
( ´゚д゚`)エー
キナマンガイイー

↑原作。分厚い。



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