おすすめ度
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ □□□ 7点
【あらすじ】
ぼくはアイアンフィストちゃん!!
ぼくはアイアンフィストちゃん!!
思えばNetflixマーベルシネマティックユニバースの作品は、主人公がみな社会的弱者でした。
デアデビル :障碍者(全盲)
ジェシカ・ジョーンズ:病人(PTSD)
ルーク・ケイジ :被差別者(貧しい黒人)
本家大元のマーベルシネマティックユニバースではこれからインフィニティストーンをめぐる宇宙規模の戦いが始まろうとしています。現実の社会問題などもはや扱い得ない題材です。仮に黒人差別問題についてアベンジャーズの面々にご意見を伺っても「うっせぇ!俺なんか体がアライグマなんだぞ!!」と一蹴されるだけでしょう。
その点Netflixマーベルシネマティックユニバースの世界観は地に足がついており「もし本当に我々の住むこの世界に超人がいたら・・・」という表現にこだわっています。登場するキャラクターの味付けが現実の諸問題に関連したものになるのは必然と言えるかも知れません。
ひるがえって本作『アイアンフィスト』の主人公ダニーは、一体どんな問題を抱えた主人公なのでしょう?
こたえ:頭がかわいそう
そうです。盲目のマット、メンヘラのジェシカ、黒人のルークに続いて頭がかわいそうなダニーの登場です。
目次
かわいそうなダニー
「遭難し死んだと思われていた億万長者が街に舞い戻る」というプロットは同じアメコミ原作ドラマ『ARROW/アロー』とダダ被りです。でも観てみた印象では両者は全然似ません。なぜ?
『ARROW/アロー』のオリバーは遭難したときすでにセレブの素養を身に着けた青年でした。だから帰ってくるなり「昼はお調子者、夜はヴィジランテ」というキャラクターが成立した訳です。
これに対し『アイアンフィスト』のダニーは遭難したときまだ少年で、しかもその後15年に渡り異世界で苦行を積み続けるという散々すぎる経緯を送っています。当然セレブの素養どころか社会的な常識さえ持たず、街に帰ってきても浮浪者然とした恰好で薄ら笑いを浮かべるという気の毒ないでたちに。
しかも好感度や信頼度の概念がなく、会う人会う人に「僕は死んだけど本当は死んでなくてしかも億万長者で異世界で修行を積んだアイアンフィストなんだ!」と話すため、案の定狂人扱いされ病院送りに。オリバーはモテモテなのにこの扱いの差!おつむが可哀想だぞ!
そもそもアイアンフィストって誰?
うなれジークンドー!
ゲーム中の彼は超かっこいい!
「アチョー!」「ホアアーッ!」と特徴ある叫びに流麗なカンフー、技名はみんな「ドラゴンファング」や「ドラゴンウィップ」などドラゴンシリーズで統一、そして必殺技は渾身のワンインチパンチ。すべての動きがジークンドー風で、明らかにブルース・リーを意識しています。接近戦の選択肢が豊富で使っていて実に楽しいキャラでした。
うならないゆったり体操
当然、実写化の際にはブルース・リーっぽく切れっ切れのカンフーが見られるんだ!と期待に胸を超膨らませていたわけですが・・・
実写版アイアンフィストことフィン・ジョーンズの構えが・・・か、かっこ悪い・・・。
いや、今のはアングルが良くなかっただけだ!
別のシーンでは・・・だ、だめだ、太極拳ゆったり体操にしか見えない・・・。
これは由々しき事態です。 主人公の体さばきがヘボいということは本作の最大の見どころ、格闘シーンがショボいということ。作品のアイデンティティーに関わる!
しかしダニーはこちらの心配をよそに「気を練る」と称して毎話1回はこの悲しみのアメコミ体操第一を披露してくれます。もうやめて!
全体的に滑稽な雰囲気がただよう
アジアごちゃ混ぜカオス
本作の悪役は『デアデビル』にも登場した忍者軍団『闇の手』です。前は『ハンド』だった気もしますが、いまは『闇の手』で呼称を統一しているみたいです。
この『闇の手』、イメージが中国と日本でごっちゃになってます。混ぜこぜになってるだけだったら「そういう世界観」として一種の筋が通りますが、仏壇に置く系の「りん」に手紙を乗せてドアの前に置いたり、組織が使っているパソコンの壁紙が浮世絵だったり、明らかに滑稽です。
他がしっかりしていれば多少可笑しみのある演出も愛嬌のうちですが、例によって主役からして太極拳ゆったり体操なので悪役までバカっぽく見え、結果として作品全体がユルくなりました。おい!!
展開がトロ過ぎる
くわえて前半の展開の遅さが致命的。もう本当にどうでもいい話を延々やられます。
例えば『グッドナイトマミー』みたいに「美容整形手術を終えて顔が変わったお母さんは本当にもとのお母さん?」的な話の運びだったら「お母さん」が本物なのか偽物なのか観客にもわからない。そこにサスペンスが生まれるという訳です。
しかし本作のダニーは本物に決まってます。観客は本物だと分かっているダニーを、他の登場人物たちが「本物かな?」「偽物かな?」「バカかな?」と長々と尺を割いて検討していきます。もう本当に長々と。このパート要る!?
ほかにも話の大筋には関係ないエピソードがてんこ盛りで、頑張って水で薄めて話数を稼いだようにしか見えません。
Netflixマーベルシネマティックユニバースの集大成となる『ディフェンダーズ』・・・もし本作がその『ディフェンダーズ』に連なる一作じゃなかったら確実に3話切りしていました。
中盤以降はエンジンかかる
俺の拳が光ってうなる!
こき下ろしまくってしまいましたが、最終話まで観てみた正直な感想としては結構面白かったです。
話の立ち上がりは超スロウリーですが中盤以降はテンポアップ。目まぐるしく敵味方が入れ替わる混沌の中、ダニーの信念が問われていきます。
しょんぼりのアクションシーンも話が進むに連れだんだん冴えてきます(目が慣れてきただけかも)。
本気になると拳が光るという設定も絵的にわかりやすくグッド。ここぞと言う所で光って唸るとやっぱりワクワクします。このマンガ的な演出は『デアデビル』ら前作までには無かったものです。
点滴取りやすそう!.。゚+.(・∀・)゚+.゚
欠点は個性でもあるよ
主人公のおバカさを含め作品全体がユルいのは事実ですが、実はダニーの「からだはおとな!ずのうはこども!」的なキャラこそまさに本作品の大事な個性。
単純な彼はある回の前半で「あいつを殺したいほど憎い!」と言っていても同じ回の後半では「もう憎しみは克服した!」と言ったりします。
良かれ悪かれこのライトさは『ディフェンダーズ』の面々の中では得難い個性であることは間違いありません。滅々とした人生を送ってきたジェシカ・ジョーンズやルーク・ケイジと違って、若いダニーには陰が無いのです。 楽観的でときにすぐ騙されるほどの純朴さは、きっと『ディフェンダーズ』で他のヒーローと合流したとき貴重な特性として真価を発揮することでしょう。
何にせよ、くどいですが『ディフェンダーズ』に連なる一作としては見ないでおく訳にはいきません。
序盤のトロさは正直かなりキツイですが、そこを乗り切ればちゃんと楽しめます!
マダム・ガオも出るよ!(あまり嬉しくはない)