海外ドラマ

現代のひずみを反映してギラギラに尖る『ミスター・ロボット シーズン1』

おすすめ度

■■■■■■■■■□  9点
【あらすじ】
若きエリオット(ラミ・マレク)は、昼はサイバーセキュリティ会社で働く一方で夜は凄腕ハッカーとして社会にはびこる隠れた悪を制裁して回る情緒不安定な青年。あるハッキング事件を解決した彼はハッキングされたサーバーに自分宛のメッセージを見つける。送り主は謎のハッカー組織「Fソサエティ」。欺瞞に満ちたこの世界を解放する時がきた・・・のか?
アメリカの映画製作界隈はこんにち超大作か否かの二つしか方針がなく、時代の空気を鋭敏に反映できる中堅作品が生まれる土壌が失われたといいます。
その穴を埋めるべく近年飛躍したのがテレビシリーズです。いわゆる「海外ドラマ」はハリウッド映画に対しての「二軍」などでは既になく、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービスの台頭も追い風となり独自のテーマや尖った感性をぶち上げる恰好のステージになりました。
そんなわけで本作『ミスター・ロボット』はまさにこの時代ならではのギラついた感性を叩きつける問題。テレビシリーズとしての尺の長さを全く感じさせない衝撃に次ぐ衝撃の展開で観るものを圧倒します。
近年めっきり姿を見なくなっていたクリスチャン・スレーターがハッカー組織のリーダーとして冴え渡った怪演を披露してくれます。大復活です。『ブロークン・アロー』とか大好きでしたよ!
外ドラとしては個人的に『ブレイキングバッド』以来のインパクトです。
おススメできます!

突き放した演出

「デスクトップにアニメキャラが出てきてガハハと笑うコンピューターウイルスなんて、20年以上ハッカーやってるけど見たことねーよ!」とは本編のある登場人物のセリフですが、これに集約されている通り本作のハッカーの描かれ方は既存のものとは一線を画しています。
なにしろリアル。徹底的に芝居がかった要素を排しています。
「いけない、コンピューターウイルスの駆除が間に合わないワ!既にシステムの90%を乗っ取られてる!」みたいな説明的なセリフは一切なく、極限までハッカー同士の生の会話を表現しようとしています。
なので「ラズベリーパイ」や「ハニーポット」などの専門用語が解説無しにバンバン出てきます。私のようなプログラミングからっきしの者は「datファイルを書き換える!」と言われるだけで正直「えっと・・・つまり誰が何をしようとしているの?」と頭に疑問符が浮かびまくります。
かなり実験的で尖った演出です。不親切と言ってもいい。
少なくともぽちぽちクリックしていたら知らない間にアマゾンプライムに入会していたという程度のリテラシーしか持たない私には荷が重いドラマです。

が、この観客を突き放した演出が本作最大の個性です。あまりにリアル過ぎて他に類を見ない独特の空気感が形成され、本作が現実なのか虚構なのかを曖昧にさせていきます。
もっと単純に言い換えればカッコいいです。この「観客ごときに理解して貰わなくても話は進むよ」的な唯我独尊ぶりが逆に痛快です。

「やあ、きみか」

現実と虚構の境界を曖昧にするもう一つの要素があります。
主人公エリオットのモノローグです。

エリオットは本編中、ずっと「きみ=ドラマを見ている観客」に語り掛けてきます。しかもその内容がいちいちエッジが効いており、内山昂輝の声で吹き替えられると更に切れ味倍増。しかしエリオット自身は「きみ=自分が作り出した架空の人格」だと思って話しています。
この二重構造はメタともフィクションとも一意的に定義できず、『ミスターロボット』がどこまで現実の話なのか曖昧にするスリリングな演出として機能しています。
エリオットはマルーン5などの大衆文化を上から目線でバカにします(実名出すところが凄い!)。が、もちろんエリオット自身が素晴らしい文化的素養の持ち主という訳ではなく、社会に疎外感を感じて攻撃的になっているだけ。言い換えれば孤独なのです。それは本人も認めるところで、孤独を紛らわすためにドラッグに頼り切り。完全に病んでます
自分で創り出した架空の人格に常に話しかけ、孤独と不安の境目を綱渡りするエリオット。彼はいったい何者なのか?シーズン1後半では衝撃の展開が待っています。

世相を反映

本編に登場する「中間層は消えた。今は金持ちと貧乏人だけ」というセリフが端的に示す通り、本作は経済格差に喘ぐ現代アメリカの怨嗟から産声を上げています。
ソ連の崩壊を経て社会主義はダメだったことに世界中が同意したのが25年前。
やっぱ資本主義こそサイコー!と調子に乗っていたらリーマンショックで経済崩壊したのが10年前。
以後も社会はひずみ続け、貧富の格差は極限まで広がりました。
オキャパイウォールストリートの例を引くまでもなく、誰もがこの状況を正しいと思ってはいない。でも何をどうすれば正しい方へ向かうのか誰にも分らない。
Fソサエティはそこへ革命を起こそうと行動していきます。
が、決して正義のロビンフッドとしては描かれません。むしろFソサエティ自身が社会それ自体よりも病んでいる点が強調されていきます。
現実はドラマほど単純じゃないのです。あれ、どっちがドラマだったっけ?
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